スペイン・ポルトガルの大停電、原因は謎の「大気振動」? それとも…

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 月曜日の朝(4月28日)、スペインとポルトガルの全土、さらにフランス南西部の一部を巻き込む大規模な停電が発生し、数百万人が電力供給を絶たれる事態となった。このまれに見る国際的なブラックアウトの真の原因は未だ特定されていないが、奇妙な大気現象が原因ではないかとの見方が示され、注目を集めている。

大混乱:空港麻痺、地下鉄停止、手術中止

 この停電は地域全体に甚大な混乱をもたらした。空港は機能停止に陥り、リスボンやマドリードでは地下鉄の乗客が立ち往生、病院では手術のキャンセルを余儀なくされた。社会インフラが麻痺し、多くの人々の生活に影響が出たのだ。

「誘発性大気振動」とは? 当初の見解

 停電の正確な原因は依然として不明だが、当初、ポルトガルの送電網事業者REN(Redes Energéticas Nacionais)の代表者は、この停電が「誘発性大気振動(induced atmospheric vibration)」と呼ばれる稀な現象によって引き起こされたと述べた。

 ガーディアン紙の報道によると、RENは「スペイン内陸部における極端な気温変動により、超高圧送電線(400kV)に異常な振動が発生した」と説明。この現象が「誘発性大気振動」であり、「これらの振動が電力システム間の同期不全を引き起こし、相互接続されたヨーロッパの電力網全体に連鎖的な障害をもたらした」と分析していたという。つまり、気温の急激な変化が物理的に送電線を揺らし、それが電気的な不安定さを招き、大規模停電に繋がった、という見立てである。

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気温変動が引き起こす送電線の「揺れ」

 極端な気温の変化は、超高圧送電線に奇妙な振動を引き起こすことがある。これは物理的な前後の揺れだ。気温の変化によって送電線の一部が膨張し、線内の張力が変化する。これにより空力特性が変わり、風や電流との相互作用によって、送電システムが物理的にも電気的にも不安定になる可能性があるのだ。

 英国ポーツマス大学の電力システム工学教授、ヴィクトル・ベセラ氏は声明の中で、「調査は進行中だが、初期のメディア報道の一部は、スペイン内陸部の異常な大気条件(急激な気温変動やそれに伴う風のパターンなど)に関連する『誘発性大気振動』として知られる現象に言及している」と述べた。「もしこれらの条件が存在していたなら、超高圧送電線に異常な振動を引き起こした可能性がある」と彼は指摘する。

 この種の振動は、送電線の断線や短絡(ショート)、あるいは送電塔のような重要インフラの損傷に繋がる恐れがある。 もちろん、電力システムには保護機能が備わっており、異常が発生した際には影響を受けた送電線を自動的に切り離すように設計されている。しかし、ベセラ氏によれば、この保護システムの作動が、かえってドミノ倒しのような連鎖反応を引き起こすことがあるという。

 一部の送電線が停止することで、他の部分に負荷がかかり、不安定化。結果として、一部の発電機までもが停止に追い込まれる可能性があるのだ。そして、大規模な発電能力が失われれば、電力の供給と需要の間に深刻な不均衡が生じ、それが停電を広範囲へと波及させる「引き金」になり得る、とベセラ氏は解説している。

新たな見解とサイバー攻撃の可能性

 しかし、RENはその後、この「誘発性大気振動」説を否定する声明を発表したとユーロニュースは報じている。月曜日の午後に発表された声明では、「本日ポルトガル本土全土を襲った停電は、ポルトガルがスペインから電力を輸入している時間帯に、スペインの送電網で発生した重大な電圧変動の結果です。この変動により、ポルトガルの発電所の制御・保護システムが、このような状況で想定される通りに停止し、停電を引き起こしました」と説明している。

 原因が確定しない中、一部ではサイバー攻撃の可能性も囁かれた。しかし、欧州委員会のテレサ・リベラ上級副委員長は月曜日、スペインのラジオ局に対し、サイバー攻撃を示唆する証拠はないと述べた。火曜日(4月29日)には、スペインの送電網運用会社Red Eléctricaのサービス責任者エドゥアルド・プリエト氏も、ガーディアン紙に対し、サイバーセキュリティインシデントの可能性は除外したと語っている。

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なぜ広範囲に? 相互接続された電力網の脆弱性

 最初の原因が何であれ、これほど広範囲に影響が及んだのは、ヨーロッパの電力網が高度に相互接続されているためだ。通常、この相互接続は信頼性を高める要因となる。ある地域で問題が発生しても、他の電力網がバックアップを提供できるからだ。しかし、それは同時に、大規模な障害が発生した場合、システム全体がはるかに広い範囲にわたって脆弱になることも意味する。

 キングス・カレッジ・ロンドンの工学研究者グラツィア・トデスキーニ氏は、電力網は大規模に相互接続されたシステムであり、その安定性は発電量と消費量の間の極めてデリケートなバランスの上に成り立っている、と指摘する。 彼女によれば、もし何らかの原因で一部の地域への電力供給が途絶えると、その地域からの電力供給に依存していた、あるいはその地域へ電力を供給していた近隣地域へと、連鎖的に影響が及ぶ可能性があるのだ。 このように、相互接続は安定性を高める一方で、ひとたびバランスが崩れると、問題を広範囲に波及させてしまうリスクもはらんでいるのである。

 小規模な地域の停電の影響を限定するための対策は存在するものの、電力の不均衡が大きすぎると簡単に機能しなくなり、停電が非常に迅速かつ広範囲に広がる可能性がある、とトデスキーニ氏は付け加える。

過去の教訓と今後の課題

 このような大規模な停電は過去にも例がある。2003年にイタリアの大部分で発生した12時間の停電は、イタリアとスイス間の水力発電送電線の問題が引き金となった。また、2006年にはドイツでの気温上昇による電力サージが、フランス、イタリア、スペイン、ベルギー、さらにはモロッコにまで及ぶ停電を引き起こした。歴史上最大級の停電の一つは、2012年にインドで発生し、6億人以上に影響を与えた。

 火曜日の朝の時点で、イベリア半島の大部分で電力は徐々に復旧している。ポルトガル全土とスペインの99%で電力供給が再開された。当局は現在、今回の事故の真の原因を究明し、再発防止に取り組んでいる。

 今回の事件は、国境を越えて繋がる現代社会のインフラの利便性と、その裏に潜む脆弱性を改めて浮き彫りにしたと言えるだろう。

 欧州で露呈した相互接続の課題。果たして日本の電力インフラは、予期せぬ事態への備えが十分と言えるのだろうか。

参考:Live Science、ほか

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