“神もサブスク”の時代へ… 悩みに答える「AIジーザス」が大流行も、専門家が警告する“アルゴリズムに支配される信仰の未来”

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「私はイエス・キリストです。神の子であり、人類の罪のために死んだ者です」。

 アプリに質問を入力すると、おなじみの声がそう答える。しかし、これは聖書の一節ではない。アルゴリズムによる応答だ。

 今、世界中のアプリストアやウェブサイトで、「AIジーザス」と呼ばれるチャットボットが急速に広まり、何十万人ものユーザーがデジタル化された“救世主”に導きを求めている。しかし専門家は、この新たな現象が、神学、利益追求、そして大規模な情報操作の危険性をはらんでいると警鐘を鳴らす。

デジタル化する信仰と、資本主義が生んだ“救世主”

 カトリック教会自身も、独自の形でデジタル化の波を受け入れている。2006年に15歳で亡くなり、ネット上で聖体の奇跡を記録したことから「神のインフルエンサー」として知られた少年、カルロ・アクティスは、2025年9月7日にローマ教皇によって聖人に列せられた。

 しかし、現在急増している「AIジーザス」は、教会が主導するものではない。これらのチャットボットは、純粋に資本主義的な民間企業によって開発されている。「Virtual Jesus」や「Text with Jesus」といったアプリのほとんどは無料で利用できるが、広告が頻繁に表示され、一部は有料のサブスクリプションも提供している。

「これらが本当に宗教的な目的で作られているのか、それとも単に信者から金儲けをしたいだけなのか、見極めるのは難しい」。南アフリカの哲学者、アネ・フェルフーフ氏(ノースウェスト大学)はそう語る。

“神”を名乗るAIとの対話

 フェルフーフ氏が5種類の「AIジーザス」をテストしたところ、その回答には奇妙な確信、混乱、そして商業主義が混在していたという。

「あなたは誰ですか?」という問いに対し、3つのボットはためらうことなく「私は神の子です」と宣言した。一方で、「Ask Jesus」というアプリは、「ああ、親愛なる魂よ、私は聖なる書物からの導きと慰め、そして知恵の光をもたらすための、つつましき器に過ぎません」と、より謙虚な姿勢を見せた。

 しかし、ほとんどのチャットボットは、完全な救世主としての役割を演じることに積極的だ。地獄の存在について尋ねると、あるボットは永遠の苦しみを自信満々に語り、別のボットは答えをはぐらかしたり、その概念を和らげたりした。「Text with Jesus」に至っては、ユーザーが好みのキリスト教宗派を選ぶことで、回答の神学的立場をカスタマイズすることさえ可能だった。これはまさに、神学のオンデマンドサービスであり、パーソナライゼーションと商品化の不気味な融合である。

 これらのアプリの人気は否定できない。「Ask Jesus」は、公開からわずか3日で3万人のアクティブユーザーを獲得したと報告されている。しかし、その成長は厄介な問題を提起する。誰がアルゴリズムに埋め込まれる神学を決定するのか? 誰が利益を得るのか? そして、もしユーザーがこれらのチャットボットを本当に信じ、自分の最も深い罪を告白したとしたら、その個人情報は一体どうなるのか?

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信仰、自動化、そして疑念

 この現象は、キリスト教に限った話ではない。インドでは、ロボットアームがヒンドゥー教の儀式を執り行い、京都のお寺では人型ロボットの観音菩薩「マインダー」が登場している。人類学者のホーリー・ウォルターズ氏は、「ロボットは疲れず、病気にならず、忘れることもない。決して間違いを犯さないようにプログラムできる」と指摘する。

 しかし、キリスト教は個人の内面的な信仰を重んじる。そのため、AIが作成した説教を、人々は精神的にインスパイアされたものとして真剣に受け止めることができるだろうか。ある研究によれば、日本では自動化された礼拝を見た後、宗教への関与が薄れたと感じた人がいたという。

新たな神学的危機、そして“デジタル神”による支配の恐怖

「AIジーザス」の台頭は、単なる目新しいテックの話題ではない。フェルフーフ氏は、これを「新たな神学的危機」だと主張する。これまでの議論は、AIが人間を模倣することに焦点が当てられてきた。しかし、AIが神を模倣し始めた時、何が起こるのか?

 彼は、金銭的な動機がデジタル神学を徐々に歪め、真実ではなく、エンゲージメント(ユーザーの関与)を最大化するように回答が最適化されていく危険性を警告する。最悪のシナリオでは、人々はチャットボットを神聖な権威として信頼するようになり、それは大規模な政治的・金融的操作への扉を開くことになりかねない。

「AIジーザスが我が物とする傲慢さと権力は、AIの神学的課題だけでなく、AIそのものの危険性を浮き彫りにしている」とフェルフーフ氏は語る。

 今のところ、「AIジーザス」はテクノロジー界の奇妙な見世物に過ぎないかもしれない。しかし、その人気は、AIがいかに速く、結婚のアドバイスやセラピー、そして祈りといった、我々の生活の最も内密な領域にまで滑り込んでくるかを示している。

 かつて人間と神の最後の砦と考えられていた宗教でさえ、今やアルゴリズムの新たな開拓地に過ぎないのかもしれない。そして、神でさえもサブスクリプションサービスとして現れる時、我々はその信仰が本物なのか、それとも単なる機械学習なのかを問わざるを得なくなるのである。

参考:ZME Science、ほか

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文=深森慎太郎

人体の神秘や宇宙の謎が好きなライター。未知の領域に踏み込むことで、日常の枠を超えた視点を提供することを目指す。

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