犯罪科学のエキスパートが告発!! 揺らぐ指紋鑑定の信頼性
最近のiPhoneではパスワードの代わりとなる指紋認証が使えることもあり、指紋による生体認証システムはますます身近になってきた感もあるが、指紋と聞いてまず頭に思い浮かぶのは警察の犯罪捜査ではないだろうか。
■同じ指から採った指紋でも完全には一致しない
犯罪捜査において指紋鑑定は19世紀末からはじまっているといわれ、以来今日まで信頼性の高い認証方式とされている。この信頼性を裏付けるのはいわゆる「同じ指紋の人間はいない」というよく知られた定説だ。
しかし先頃、指紋鑑定の信頼性を揺るがす記事が4月21日付けの英紙「Daily Mail」に掲載され話題を呼んでいる。
イギリス内務省の犯罪科学捜査官、マイク・シルバーマン氏はこう語る。
「確かに細部まで正確に一致する指紋データは2つとしてありません。たとえそれが同じ指から続けて採取したものであったとしても、厳密な意味では同じ指紋にはならないのです」
これは我々のような犯罪科学に疎い一般人にとっては盲点を突かれるような、ショッキングともいえる発言だ。
つまり、同じ指から採取した指紋を2つ並べて照合しても(おそらくちょっとしたズレや偏りによって)100パーセント完全には一致しないということだ。したがって、保管してある指紋のデータと、事件などで採取され指紋を照合する際には“適合率”がある基準以上であれば同一人物であると判断されるのではないかと推測できる。さらに他の状況証拠も考慮されたうえでの総合的判断になる場合もじゅうぶん有り得るのではないだろうか。
シルバーマン氏はさらに「特に犯行現場の指紋は往々にして汚れていたりするので正確に採取できないことがよくあり、犯罪捜査において指紋鑑定はそれほど完全なものではありません」としたうえで、「裁判において陪審員はこのような指紋鑑定の実態を知っていなければなりません」と強く語っている。
■指紋鑑定に起因する相次ぐ誤認逮捕
犯罪科学の草分けで多くの著書も手がけているシルバーマン氏はイギリス初の犯罪科学捜査官であり、また、ロンドン警視庁に最初の自動指紋照合システムを導入した担当者でもあったという“犯罪科学のエキスパート”だけに、今回の発言は大きな波紋を呼んでいる。
また、指紋鑑定の信頼性低下は相次ぐ誤認逮捕からも来ているという。有名なところでは、2004年にマドリッド列車爆破事件との関係性をFBIの指紋鑑定の専門家によって疑われた者もいれば、1997年には殺人現場の死体に残されていた指紋で事件のとの関わりを疑われて告訴されたスコットランドの警官などがいたが、それらは全て誤認であったことがその後証明されている。
それでも今後も指紋鑑定は犯罪捜査のうえで重要な役割を担うことに変わりはないだろうが、現実の犯罪捜査はドラマで見る犯罪科学捜査チームの活躍のようなものでないことだけは確かなようだ。
(文=仲田しんじ)
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