クマに襲われたら口の中に手を突っ込め? アイヌ民族伝説のハンターが語る、クマへの対処法

■姉崎等という男の魅力

 しかし、こうした「クマ対策ハウツー」だけが本書の面白さではない。伝統的なアイヌの信仰や風俗についての語りもまたこの本の魅力を高めているし、姉崎の生涯も波瀾万丈だ。

 内地の人間である父とアイヌの母親との「合いの子」だった彼は、アイヌの集落に住みながら、周囲から疎外されて育っていた。彼がアイヌの狩猟技術を必死で盗むようにして覚えたのは、父親を早くに亡くし、12歳で一家の生計を背負っていたからだ。姉崎のアイヌに対する客観的な視点は、こうしたマージナルな出自によるものだろう。

 山の歩き方や過ごし方についても、「アイヌの人々ではなくクマから教わった」と姉崎は語る。崖を登るにしても、彼は人間流の登り方ではなく、クマ流だったようだ。だから他人と一緒に山へ入ると、誰も姉崎にはついていけず、足手まといになってしまった。彼はひとりで山に入り続け、クマの思考を読み、気持ちを理解しようと試みながら、クマを仕留める腕を磨いていったのである。


■尊重されるべき、クマの視点

 クマから山を学んだ姉崎だけに、彼はアイヌの視点とアイヌを外側から見る視点だけではなく、クマの側から人間を考える視点まで持っているように思われる。クマは人間に遠慮しながら生きているけれど、人間はクマに遠慮せず、クマたちの生活圏にズカズカと足を踏み入れているのだ。「クマたちは自然のルールを守っていきてきたけれど、人間は自分たちで決めたルールさえ守れない。クマと人間とのあいだにトラブルが起きるのは、いつも人間の方に非がある」こうした指摘は、姉崎にしかできなかっただろう。

 クマ撃ちの達人が発する、「クマは危険な生き物だ、という考え方から改めなければいけない」との言葉は、自然を考える上での新しい視点を提示している。
(文=カエターノ・武野・コインブラ)

■カエターノ・武野・コインブラ
会社員。日本のインターネット黎明期より日記サイト・ブログを運営し、とくに有名になることなく、現職(営業系)。本業では、自社商品の販売促進や販売データ分析に従事している。

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