■撮影と肉体関係 ― 人間と同化するために

(C) Antoine d’Agata / Magnum Photos
――ダカタさんは旅する写真家というイメージが強いのですが
アントワン・ダガタ氏(以下、ダガタ) 初めて日本に来たのが2004年で、それから10回ほど来日して、「また帰ってきた」という感覚だね。日本に来たら必ず「新宿と六本木」に行くんだ。ただ、僕はずっと旅をして生きているから、感覚的にはそれも通過点にすぎない。きっとどこにいても、そこで1日を過ごしているという感覚なんだと思う。そこで写真を撮ったり映像作品を撮るんだ、『AKA ANA』(ダガタ氏が撮影した日本人女性7人のドキュメンタリー映画作品)も、そんな作品でね。1日しか会わない人もいれば、何年もかけて撮る人もいる。その違いはどれだけ興味を抱くかで、写真を通してではなく、ビデオを撮りながら彼女らの生の声を聞いて判断するんだ。女性というものは、どこか死に近いイメージがあるけど、日本の女性はどことなく精神的にタフなイメージがあるね。それが表現したかったんだ。
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――『AKA ANA』に出演されていた女性達はAV女優さんなのかと思ったのですが…?
ダガタ あれは2カ月かけて7人の女性を撮ったんだけど、AV女優は2名だけで、あとは六本木で知り合った女性や、SMの女王などのフェチシズムを持った人たちだね。その中の1人は、“ある男の奴隷”のような人で面白かった。撮っていて気づいたけど、彼女らの中には腕に(リストカットの)マークがある者もいてね…。今でもたまにメールを送ったりしてやり取りしているよ。
なかなか被写体を探すのは大変で、それは日本でも同じだった。その人が置かれている社会的状況が、とても大事なコトなんだ。僕が撮りたいのは、犯罪者であったり、薬物中毒者であったりと、社会的に見捨てられている人たちだけど、それが彼女らのありのままの姿でしょ? どんな人であれ、社会に生きている以上、その関係を断ち切ることはできない。真の声を聞くために、できるだけ、彼女らの中へ入っていきたいんだ。エモーショナル、フィジカル、ポリティカル的にね。だから毎回撮影するのに、肉体関係を持ちたいんだ。