■世界に自分を感染させる ― 実現不可能を続けることの美しさ
(C) Antoine d’Agata / Magnum Photos
――森山大道さんの写真と、どこか似たイメージを感じるのですが。
ダガタ 彼は最も影響を受けた写真家の1人。彼とは2007年の写真展で初めて会ってから何度か話をしたんだけど、一番の違いは「距離感」だね。森山さん本人もおっしゃっていたけど、彼が社会と自分との距離(ギャップ)を撮ろうとし、世界と己との埋めようのないギャップを楽しんでいるのに対し、僕は不可能と知りつつも、そこにあえて入っていこうとする姿勢に違いがあるのだと思う。どちらかといえば世界に溶け込んでいく森山さんに対し、僕は自分自身を感染させていきたいと考えている、それが一番の違いだと思う。お互い、実現不可能だと知りつつその姿勢を保ち続けていることが美しいと思う。
今回の写真集のタイトル『Anticorps』にも、そんな思いが込められているのであろう。先に訪れた写真展で購入した写真集にはサインと可愛らしいイラストを描いてもらった。カメラなのかと思っていたのだが、あらためて何を描いたのかと聞くと、「これは注射器だよ」とはにかみながら、皮肉っぽく答えた。
(取材・文・写真=新納翔)
■Antoine d’Agata アントワン・ダガタ
1980年頃から10年間ヨーロッパ、中米、アメリカなど世界各地を放浪。1990年ニューヨークのICP(国際写真センター)で写真を学ぶ。1991年から92年、マグナムのニューヨークオフィスにて久保田博二らのアシスタントとして働く。家庭を持ち、生活のため93年から数年写真から離れるが、その後活動を再開し、取材のほか、写真展の開催や多数写真集を出版する。1999年パリで”Vu”に参加。2001年にはニエプス賞受賞。2004年マグナムに参加。2008年より正会員。2004年、『Insomnia』(不眠症)で第20回東川賞・海外作家賞を受賞。写真集に、『Mala Noche』(不貞な夜)(1998年)、『Home Town』(2001)、『Insomnia』(不眠症)(2003)、『Vortex』(渦)(2003)、『Stigma』(2004)、『Psychogeographie』(2005)などがある。常に世界中を巡りながら精力的に活動している。
『Anticorps 抗体 』(赤々舎)
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