■危険な場所 ― “死の部隊”と遭遇
(C) Antoine d’Agata / Magnum Photos
――世界中の危険な地域に足を踏み入れて撮影をしていますが、今までで一番危険だったことってなんですか?
ダガタ ユーゴスラビアやベトナムとか色々あるんだけど、一番を選ぶとしたらブラジルのサルバドールで夜間撮影していた時のことだね。急に後ろから不意打ちを食らって、袋だたきに遭ったんだ。しかも、タチの悪いことに「DEATH SQUADS(死の部隊)」と呼ばれるテロ組織のメンバーたちだったんだ。その時は命からがらタクシーに乗ることができてどうにか逃げられたんだが、まだ腫れも引かぬ1週間後、同じマグナムのアレックス・マヨーリという写真家が、その時の僕の顔を撮影したんだ。それが彼の写真集に載っていてね、ほらこれだ。なんだかおかしいね、ははは。そのほかにも、世の中には治安の悪い所は多くて、南米には昼間は警察の格好をしているギャングなんかもいるんだよ。
※アレックス・マヨーリ(参考URL)
――今までの話で、フィジカルな苦痛とエモーショナルな苦痛という2つの苦痛の話が出ましたが、どちらが耐え難いものですか?
ダガタ 難しい質問だね。どっちもどっちと言いたいところだけど。フィジカルな苦痛は耐えることができる、たとえそれがどんなに酷いものであったとしても。もちろん、可能性のことだけど。エモーショナルな苦痛からは酒やドラッグを使って逃げることができる。そりゃ孤独に耐えきれなくなって泣くこともあるだろうが。僕が考える最悪の苦痛というのは経済的な苦痛であり、そこからはどうやっても逃げることができない。経済的な苦痛は、フィジカルな苦痛とエモーショナルな苦痛をビヨンドしていると思うんだ。この写真集『Anticorps』の表紙の女も、社会的に弱い立場にあって、レイプ経験もあって、HIVにも感染していて、撮影の1カ月後に亡くなったよ。酷いものだった。
――宗教に関しては?
ダガタ Hateだね。全ての宗教が嫌いだ。アジアを旅した時に強く思ったのだが、貧困問題、格差問題など、さまざまな解決すべき問題が山積しているのに、宗教は人を直接的には助けることができないと感じたよ。宗教は政治的な問題、我々が抱く不安や怒りなどをコントロールすることはできないのだね。