東宝特撮史の黒歴史 ― ゴジラの影に隠れた「幻の東宝怪獣映画」
■作品のウラに隠されたとある“疑惑”!?
検討用台本には、本編終盤でNGとなった性的な意味合いを含んだ記述が散見する。怪物が女性をさらうのは古今東西モンスター映画のお約束だ。子を失った雪男にも「種の保存」という本能から人間のメスをさらう必要があった。ラストに雪男の前に立ちはだかるチカは、台本では「裸身」と記されている。だが、さすがに子供も見る怪獣映画だけに、この辺はオミットされたのかもしれない。
■なぞがロマンを呼び続ける未確認生物!
また、最近オックスフォード大学のチームが、ヒマラヤ山脈の「雪男(イエティ)」が残したとされる体毛は「熊のもの」と発表して話題になったが、あくまで雪男の出没する地域で拾った毛をDNA鑑定した結果であり、雪男の体から採取した毛を解析したわけではない。
さて、そもそもこの雪男だが、1951年にイギリスの探検隊がヒマラヤ山中の雪上で巨大な足跡を発見してことがきっかけで世界中にセンセーションを巻き起こした。それに着目したのが、我らが「特撮の神様」円谷英二。もともと『ゴジラ』誕生のキッカケは、彼が1933年にアメリカで観た『キング・コング』だ。ゴジラの次に、話題の雪男をキング・コングに重ね合わせて作品を作りたいと思ったのだろう。
『獣人雪男』は、本来なら絶滅危惧種である生物種と、それを神と敬う山の民の同時絶滅の瞬間を描いた悲哀溢れる佳作である。だが、我々が知るに及ばないところで「諸事情」というものが存在し、未だテレビ放映やソフト化の気配はない……。
さあ、なにはともあれ、新しいゴジラだ! 1998年のローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA』が日米のゴジラマニアから批判を浴びるイタイ作品だったが(笑)、今回はそうならないように願おうではないか。
『獣人雪男』
東宝・1955年
脚本/村田武雄
監督/本多猪四郎
出演/宝田明、河内桃子、根岸明美ほか
■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究 家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある
ウェブ連載・「幻の映画を観た! 怪獣怪人大集合」
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