脳コミュニケーションの時代到来か? ― 驚異の科学的読心術、心の先読みも

 実験中、研究チームはどの音声にどのニューロンが反応したかを次々に突き止めて、被験者それぞれの個別的な“解読機”を即座に作り上げた。この解読機は、スペクトログラム(音の三次元グラフ表示)を作成するためのものである。そして脳活動の情報から作成したスペクトログラムから単語を特定し、音声で復元することに成功したのだ。つまり、話し言葉の音声と脳内の反応を個別的に結びつける“翻訳辞典”を作成したのである。

「この研究はコミュニケーションの術を断たれた“閉じ込め症候群”や脳性麻痺の人々への医学的な能力補完システムになります」と、研究チームのブライアン・パスレイ氏は語る。この技術により、会話の能力がなくても、脳活動の情報だけで考えを理解でき、伝えることが可能になるのだ。


■次に浮かぶ言葉の“先読み”も可能に!? 脳コミュニケーションの時代

mindreading2.JPGオリジナル音声のスペクトログラム(上)と、脳内活動の情報から復元されたスペクトログラム(下の2つ) 画像は「YouTube」より

 2012年に発表された最初の研究論文で、研究チームはこの研究を「これまでになかった別次元の“読心術”実験である」と記している。これに加えて神経心理学のロバート・ナイト教授は「これは、脳卒中やルー・ゲーリック病(筋萎縮性側索硬化症)で話せなくなった人々を強力に支援する技術です。最終的には脳活動の情報だけでコミュニケーションを成立させることが可能となり、数え切れない利益をもたらしてくれます」と語っている。

 まだ研究初期段階であるにも関わらず、研究チームは近いうちに脳活動を“翻訳”し、パソコン経由で発言したり、あるいはその場で書面にして表示することが可能になると確信している。なぜなら後に残された作業はひたすら「翻訳辞典」の収録単語数と例文数を増やし、認識できる声質や訛りの幅を広げて精度を高め、必要に応じてプログラムを修正するだけだからだ。要するに実用に耐え得るレベルに達するまで、今後はデータ収集とプログラムの機械学習を続けるだけなのだ。

 さらに研究が一歩進めば、このシステムは人間が次に言おうと考えていることをある程度“先読み”することができると研究者たちは考えているということだ。人間の言語活動の大量の“ビッグデータ”を学習すれば、ある特定の状況や文脈の中で発せられる単語やフレーズの後、どんな言葉が続くかが統計的に予測でき得ることは、現在のグーグルの文字入力システム(予測変換機能)などをみても納得できそうなことだ。

 これはまさに「思考盗聴」とセットになった「行動予測」といえるのかもしれない。社会に多大な貢献をもたらす新技術の登場の一方で、これまでの“プライバシー”の概念は大きな修正を求められているのかも知れない。
(文=仲田しんじ)

参考:「Daily Mail」、「New Scientist」ほか

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