失われた記憶を取り戻すことができる?「長期記憶の保存先はシナプスではなかった」=米研究
■いったん形成された長期記憶は復元できる
グランツマン教授の研究チームは、動物の記憶を研究するために海のカタツムリである「アメフラシ(ウミウシ)」を用いた。
アメフラシはエラ部分にダメージを与えかねない潜在的な危険に対し、身体を萎縮させて明確な防御体勢をとることから、神経系の実験に良く使われている。
実験では、アメフラシに危険を予感させて「萎縮反応」を起こさせると同時に、微弱な電流を尾に流して何度も強化学習を行なったという。
この強化学習を続けると、尾への刺激だけでこの「萎縮反応」を数日間にわたって見せるようになったということだ。
つまりはアメフラシに数日間は続く「長期記憶」が刷り込まれたのである。
実験中の微弱電流の刺激によって分泌したセロトニンが中枢神経系に広がってタンパク質合成が行なわれ、アメフラシの神経系に新たなシナプス構造が生成されたという。
実は今まではこのシナプス構造こそが「長期記憶」の保存場所であると考えられていたのだが……。
この強化学習の後、アメフラシの神経系にタンパク質の合成を阻害する薬物を投与するなどして、いったん中枢神経を元の状態に戻したということだ。
するとこの長期記憶は失われたように思えたが、尾への刺激を何度か行なううちにアメフラシは再び「萎縮反応」を見せたのだった。
つまり、長期記憶がよみがえったのである。
「これは、記憶がシナプスではなく他の場所にあり、いったん形成された長期記憶は復元できることを暗示しています」(グランツマン教授)
この実験結果によって、研究チームは「強化学習によって新たに生まれるシナプス構造は長期記憶の形成に関係しているものの、記憶の保存場所ではない」という結論に到ったのだ。
■では記憶はどこにあるのか…
では、記憶がシナプスに保存されていないとすれば、いったいどこにあるのか?
「我々は記憶がシナプスではなく“神経細胞核”に保存されていると考えていますが、今のところ証明することはできません」とグランツマン教授は語る。
残念ながら今回の研究では、記憶の保存先を突き止めるまでには到らなかったということになる。
そもそも「記憶」だけでなく、人間の「意識」や「思考」などのメカニズムは、最先端の科学をもってしてもほとんどわかっていないというのが実情だ。
とはいえその中でも、現在最も説得力のある説明のひとつがウィスコンシン大学精神医学部のジュリオ・トノーニ教授が唱える「統合情報理論」ではないだろうか。
統合情報理論によれば人間の意識や記憶は、脳細胞や神経細胞の一部分が担っているのではなく、感覚機能と神経細胞、脳細胞によって複雑に結ばれた「ネットワーク」の中にあるという考え方だ。
さらにこの仮説を拡げれば、この個人レベルの意識のネットワークはさらに大きな集団のネットワークに繋がっているかもしれないという考えも浮上してくる。
この考えに立てば、例えばテレパシーやリモートビューイング(遠隔透視)なども説明できてしまうのかもしれない。
はたして今後、この分野の研究がどんな展開を見せるのかまったく予断を許さないだけに興味津々である。
参考:「Daily Mail」、「UCLA」ほか
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2024.10.02 20:00心霊失われた記憶を取り戻すことができる?「長期記憶の保存先はシナプスではなかった」=米研究のページです。記憶、脳、神経、仲田しんじ、シナプス、ニューロン、細胞などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで