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「死体洗いのバイトをしたことがある人」はいますか？

2015.01.15 18:15 文＝渋井哲也

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～【ジャーナリスト渋井哲也のひねくれ社会学】都市伝説よりも手ごわいのは、事実だと思われているニセモノの通説ではないだろうか？このシリーズでは実体験・取材に基づき、怪しげな情報に関する個人的な見解を述べる～

　たまに耳にする「死体洗いのアルバイト」だが、私が見聞きした範囲では、そんなものは存在しない。死体を取り扱う機関といえば「警察署　消防署　病院　葬儀社」などが考えられる。

　しかし、私が新人記者だった頃、毎日のように警察署や消防署、病院を取材していたが、これらの職業以外の人が死体を扱っている場面は目にしたことがない。

　いつだったか、実話誌の取材で改めて「死体洗いのアルバイト」があるのか検証するため、「警察署　消防署　病院　葬儀社」に取材をしたことがある。しかし、いずれの取材先でも「そんなものがあるわけないだろう」と言わんばかりの対応をされてしまった。

■アルバイト経験を語る人物

　だが、「死体洗いのアルバイトをしたことがある」と話す人はゼロではない。テレビ番組や雑誌などでも、その経験を話す人は時折現れるのだ。

「死体洗いのアルバイトは、本当は存在するが、公に存在しているわけではなく、秘密裏に行われているのかもしれない。私の取材力が足りないだけかもしれない」

　彼らを見て、私はそう思うことがある。

　だが、たとえあるとしても、どんな目的で「洗う」のだろうか？　

　たとえば、「人体実験をするための検体があったとして、そのときに『洗う』作業が発生する？」　しかし、人体実験が存在するとしても、「洗う」ことだけに人員を割くのは費用対効果としてどうなのか。また、お金の出所も不明だ。

　では「家族がなんらかの理由で死亡し、まだ『お別れ』をしたくない理由があるとする。その際、冷凍保存が必要になるが、その間に『洗う』という工程がある？」　しかし、こんなケースは実際には聞いたことがないし、あったとしても、極レアな数だろう。

■死体を洗うだけのアルバイトの存在理由

　そもそも、なぜ「死体」を「洗うだけ」のアルバイトが存在するのかが謎だ。一体、いつどこで「洗う」必要が出てくるのか？　それを説明できる人はなかなかいない。もちろん、「死体」を取り扱う際は、程度の差はあれ「洗う」と表現できる場面もあるだろう。しかし、それはあくまで綺麗にするためであり、アルバイトを雇ってまで行う工程ではなさそうだ。

　もちろん、遺体を入浴させ、洗浄する「湯灌（ゆかん）」という仕事はあり、実際に湯灌師は存在する。自宅で亡くなれば、葬儀業者がすることになっているが、病院で亡くなれば、看護師によってなされることがある。しかしこれが都市伝説で囁かれる「死体洗いのアルバイト」と言えるだろうか？

　いろいろ聞いていくと、「“死体洗い”は知らないが、“死体運び”はあるんじゃない？」という話をする人に出会った。「死体運び」となると、私のイメージでは、闇サイトで見ず知らずの人を募集して、殺人などで亡くなった人の死体を運ばせるものだ。それなら実際、事件になったことがある。

■死体をめぐる怪し気な仕事

・栃木ダンボール遺体事件

　2014年8月、栃木県佐野市の道路脇で放置されていた段ボールの中に、女性の遺体が放置されていた。女性は埼玉県北本市出身の16歳。12年9月に県内の児童自立支援施設から行方不明になり、捜索願が出ていたのだが、この事件で、遺体を遺棄した男は、闇サイトで「死体運び」のアルバイトを見つけて首謀者の容疑者と知り合い、遺棄したと述べている。その時は「死体運び」とは書いておらず、「産業廃棄物の仕事」として募集が行われていた。　

　しかし、これも特殊なケースであり、そもそも犯罪だ。噂されるような「死体洗いのアルバイト」ほど、敷居は低くない。

「電車の飛び込み自殺の死体を運ぶ仕事はあるんじゃない？」

　そう話す人もいた。確かに、電車のホームに飛び降りた人は誰かが運ばなければならない。まさか、鉄道会社の職員がするわけがない。だとすれば、誰が運ぶのか。正解は、消防本部の救急隊員だ。しかも、これに特化したアルバイトは存在しない。

　いずれにせよ、「死体洗いのアルバイト」を実際に経験した人にまだ私は会ったことがない。もし、実際にしたことがあるという人がいるのなら、ぜひ、お会いしたい。

※経験がある方、ご情報をお持ちの方は、ぜひ編集部までご連絡ください。