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1日コレだけ食べれば何も要らない？　究極の栄養食「ソイレント」を飲んでみた結果…！

2015.04.01 18:00

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かき混ぜる。バースプーンじゃ溶けないので、シェイカーかバーミックスがおすすめ

　評判はよろしくない。ラインハートはVICE誌のインタビューで「It tastes very good. I haven’t got tired of the taste in six weeks. It’s a very “complete” sensation, more sweet than anything」（超うめえぜ。6週間飲んでるが、まったく味に飽きないね。こいつより完璧な味なんかないぜ）と言っているが、ジャパニーズはお気に召さないようである。

　同会主催者によると、
「ソイレントは食べるのが嫌いな人のもので、ダイエットとか健康とか関係ないですからねえ」
　食べるのが嫌いな人が作ったのなら、分かる。なんとも微妙な味なことよ。

　1パック1日分を購入した。関税や運賃を加算するとおよそ3500円。アメリカで買えば、その半額。それでもラインハートが言うほど安くはない（食費と時間の大幅な節約がソイレントの主目的なのだ）。とりあえず日本ではソイレントを食費の面で語るのは愚かだろう。世間から380円のコンビニ弁当や牛丼を駆逐できれば話は別だが。

　家に帰って、1日3食、ソイレントに代えてみた。改めて袋から出してみると、きな粉にそっくりだ。全て一遍に作りたかったが、そんなに大きなジャーがない。面倒だが、2回に分けて作る。半量をジャーに入れ、水を加えてバースプーンでかき回すが、溶けにくい。きな粉と同じで、ニチャニチャと固まってしまうのだ。

　バーミックスで一気に溶かす。一応、おやつ分も入れて4つに分けると一食およそ500㏄。小さなコップに入れたら5杯分にもなった。結構な量だ。飲むとますますプロテインの味だ。

　ラインハートはカロリーメイトのことを知らないんだろうなと思う。ソイレントをいち早く体験したい人は、缶のカロリーメイトを飲めばいい。味がそっくりだ。カロリーメイトの方が若干甘いけれど。カロリーメイトは１缶200キロカロリーなので、2缶半を1食にすれば、ソイレントとほぼ同じである。

　丸1日ソイレントを飲んでみた、感想はと言えば、まあ味気ないこと。ソイレントはまるで食事じゃない。車にガソリンを入れるのと同じだ。車はガソリンを味わうことはない。

　カロリーは足りているんだろうが、液体を飲むだけなので、お腹はとても早く空く。お腹が空けば、ソイレントもそれなりにおいしくなってくる。飽きる飽きないというより空腹感が強い。犬やハムスターが毎日同じ物を食べてよく飽きないなと思っていたが、なんとなく分かった。

　それにしても、食べる時間を節約してどうするんだ？　という話である。

　ソイレントは食べる時間と食事に掛かるコストを大幅に節約できるとラインハートは言う。しかしイタリア人の食べて飲んで歌って愛して、ではないが、人間の喜びは原初的なものだ。ミヒャエル・エンデ著の『モモ』に出てくる“灰色の男たち”は、歯磨きの時間も服を着替える時間もみんなが暖炉の前に集まる時間も、何もかもが無駄で自分の時間が奪われていると村人を脅かし、奪った時間をタバコに詰めて吸っていた。

　ああ、くだらない。

　とはいえ、ソイレントに意味がないわけではない。日々の食事を大事にし、１食２食をソイレントに代えると、残った普通の食事はとても華やかで大事な時間になる。私はソイレントで過ごした翌日の朝に、その前の晩に家族が食べた夕飯を朝ご飯として食べたが、舌がきらめいた。ほとんど消化に使わなかった胃に熱い味噌汁が染み渡った。深く味わう喜びのために、ソイレントを取り入れるのは悪くない。

　ソイレントは食糧危機の未来を描いた映画『ソイレントグリーン』から名称を取ったという。食糧危機を解決するべく開発された人工栄養食がソイレントグリーンだからだ。粉末のソイレントは世界中に容易に送ることができ、保存もできて水に溶けば飲める簡易さがウリだ。消化もよく、餓死寸前の人たちを助けることができるだろう。たぶん先進国ではダイエット目的で購入する人が多くなりそうだが。

　映画の『ソイレントグリーン』は人間の死体から作られている設定だった。そんなおぞましい未来は願い下げである。そのためにも食を考え直すきっかけとして、ソイレントを飲んでみたら良いと思う。メタボメタボと騒ぎ、作った料理の半分を無駄に捨てる社会が真っ当なはずがないからだ。それにソイレントグリーンと違って、ソイレントはヒューマンフリーなので安全安心だ。
（文＝川口友万／サイエンスライター／著書『大人の怪しい実験室』）