【死刑囚の実像】死刑より「拘置所職員からのいじめ」を恐れる大量殺人犯――加古川7人殺害事件


■具体性のない「いじめ被害」

 面会を断られることも覚悟していたが、藤城は面会室に現れた。Tシャツに短パンというラフな格好。身長は160センチあるかないかという感じで、手足はやせ細っている。それ以前に雑誌で見た写真では険しい顔つきだったが、この時は穏やかな表情になっており、印象を率直に記せば「芸人の間寛平に似た普通のおじさん」。そうと知らなければ、大量殺人犯にはとても見えない人物だった。

 藤城は面会室に現れた際、軽く会釈したものの、椅子に腰をおろし、アクリル板越しに筆者と向かい合うと、なんとなく落ち着かない様子だった。しかし、強引に面会に訪ねた非礼を詫びつつ、手紙で訴えていた「職員からのいじめ」がどんなものなのかを尋ねると、ジェスチャー付きで切々と「いじめ」の被害を訴えた。

 「弁当を買いますやろ。職員がそれを(小窓から)房に入れる時、上下や横に揺するんで、中身がどっちかに寄ってるねん」
 「わしが(房内の)トイレで用便しよったら、房の前の廊下を何度も行ったり来たりして、ジ~と見てくるんや」
 「わしは病気の後遺症で言葉がちゃんとしゃべれへんのやけど、『そんなしゃべり方しかできんのか』と言われるねん」

 たしかに藤城は滑舌が悪かったが、それを差し引いても、藤城の話は意味が分かりにくかった。本人は、「弁護士にいじめのことを相談する手紙を書いたら、職員らに逆恨みされて、余計ひどいことになっとるんですわ」と真顔で言うのだが、どんないじめを受けているのかの具体的なイメージが全然湧いてこなかった。

■妄想性障害は否定されているが…

 藤城は事件前、近所の人たちが立ち話をしているだけで悪口を言われたと思い、突然怒鳴りつけるなどのトラブルを頻発させ、地域で怖がられる存在だったとされる。裁判では第一審、控訴審共に完全責任能力があると認められたが、実はその判断は際どいもので、精神鑑定を行った2人の医師のうち1人は藤城が「妄想性障害」だという見解を示していた。筆者は本人に会い、裁判では否定されているこちらの鑑定結果が実は正解ではないかという疑念を抱かざるをえなかった。

 しかし藤城は翌日にもう一度面会に応じてくれたものの、それ以後は何度訪ねても面会拒否。そして昨年12月、以下のようにしたためた、はがきをくれたのを最後に音信は途絶えたままとなった。

〈何度も手紙ありがとうございます。片岡さんの心尽くしを受けておきながら誠に申し訳ないですが、面会は辞退致したく思います。どうかお元気で頑張って下さい。〉

 「心尽くし」とは、おそらく筆者が最初に面会した際、飲み物などを差し入れしたことを言っている。こういうことを律儀に気にするのも藤城の性質なのだろうと思った。

 今年3月、最高裁であった最後の審理。被告人の出廷は認められない最高裁の法廷で、3人の弁護人は改めて藤城が妄想性障害に陥っていることを主張し、死刑の回避を求めた。しかし壇上の裁判官たちが心を動かされたようには見えず、死刑判決は覆らないのだろうと確信した筆者は複雑な思いにとらわれた。精神的に変調をきたしていることがあれほど明らかな人物をこのまま死刑にするのもどうかと思う一方で、今も藤城本人にとっては自分がこのまま死刑になるか否かより、「職員からのいじめ」の方がはるかに重大な問題なのだろうと思ったからである。

(取材・文・写真=片岡健)

ノンフィクションライター。全国各地で新旧様々な事件を取材している。著書に『平成監獄面会記』(サクラBooks)、編著に『桶川ストーカー殺人事件 実行犯の告白』(KATAOKA)など。同書のコミカライズ版『マンガ「獄中面会記」』(カルトコミックス、作・塚原洋一)が8月8日に発売。
Twitter:@ken_kataoka

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