写真・新納翔
■実の息子に年金を奪われ、ヤクザに借金をし……
宿代が出せないのは、ふた月に一度訪ねてくる例の男が年金を全部持っていってしまうからだということがわかった。年金支給日になって現れるこの男の正体は、実の息子だということも判明した。息子は生まれつき足が悪く、施設に入っているとのことであるが、それ以上の深い話を聞く事はできなかった。事が発覚してもおばあさんは「息子を責めないでださい、お金はどうにかしますから、この通りです。○○は生まれつき足が悪いけど、いい子なんです!」と、帳場の前で土下座をするのであった。お金にこまったおばあさんは、3日に一回カップ麺を食べられればいい方で、いつも「お腹がすいて倒れそうだ」と独り言のように言っていた。炊き出しなどは都内各所で行われているが、その情報が伝わらなければ意味がない。見かねて豆腐やちょっとした野菜などを差し入れることもあったが、最低限の距離を保つようにはしていた。
ちなみに山谷であれば、安い値段で、大量のご飯が食べられそうな印象を持っている人も多いだろうが、実際はスーパーをのぞくとかなり高い。かつて山谷銀座と呼ばれた通りにある名前からして山谷らしい「厚生食堂」は、ちょっと朝飯を食べるだけで千円近くかかってしまう。こういった山谷の食堂が食べログにあるのも意外だが。
山谷には見てくれは悪いが根のよい人もいれば、根っから悪いのもいる。店の名前はだせないが、表向きは居酒屋だが、そこの女主人が手広く金貸しをしている、そんなところもいまだにある。おばあさんは宿代の為にお金を借りて来たらしいのだが、悪い事が続くもので、借りた人が身元を隠して逃走中のヤクザだったのだ。後々聞くに、法外な利子を請求され、お金を搾取されていたらしい。このヤクザさんの方、私も面識のある人だったが、普段の物腰は柔らかいものの、ダブルのスーツを決めて歩いているとさすがに近づきがたい雰囲気があった。