写真・新納翔
■桜と共に散ったおばあさん
金策尽きたおばあさんだが、オーナーも無賃宿泊をこれ以上許すわけにはいかず、再三に渡ってその息子と話し合い、今後少しずつ返済していくと一筆書くに至った。しかしまともな職に就く事ができない息子に返す当てがないことは自明の理であった。一時期慌ただしそうにしていたおばあさんも、結局当てにしていた「埼玉の姉」に断られ、途方に暮れていることがわかると、開き直ったかのように落ち着いた様子に戻った。隅田川が綺麗に桜で色づく春先のころだった。
ある日、栄養失調でふらつくおばあさんが帳場にやってきて「隅田川の桜を見たいんです」と言う。私はおばあさんの手を引いて隅田川まで一緒に歩いた。親切心なのか、なにか1枚いい写真が撮れたらという下心かはわからない。おそらく写真家としてどちらもあったのだと思う。山谷の宿からゆっくり歩いても20分ほどで白鬚橋を渡って隅田川に着いた。
「綺麗だね。こんな綺麗な桜を見たのは何年ぶりだろう……。ありがとうね」
しみじみと“想い”を語るおばあさんの言葉を耳にしながら私も水面にゆれる桜を見ていた。その時だった。
「ざっぶーん」
柵を乗り越えおばあさんは隅田川に身投げをしたのであった。あまりに突然のことになす術がなかった。警察が来て、めまぐるしい時が過ぎ、おばあさんの部屋に戻ると、机の上にスーパーのちらしの裏に書きなぐった遺書ともとれるものがあった。
あの男がきたので50万とられ、それでも私達がわるいのか
そのため子供がでていつたのに
おかあさんわるものにしてごめんねといってました
お金のいっぱいある人にはかないません
あのよでおわびします。
■新納 翔 Niiro Sho
写真家。1982年横浜生まれ。麻布学園卒業。早稲田大学理工学部応用物理学科中退。日本の三大ドヤ街のひとつである「山谷」にて、実際に働きながら7年間写真を撮り続ける。写真集に『Another Side』(Libro Arte)等がある。田村彰英執筆。現在、築地にあるギャラリーふげん社にて、写真展「築地0景」開催中
ホームページ http://nerorism.rojo.jp/
Facebookページhttps://www.facebook.com/NiiroShoPhotography
6月9日(火)~ 6月27日(土)
13:00-19:00 入場無料 (日・月・祝 休)
・会場 ふげん社/東京都中央区築地1丁目8-4 築地ガーデンビル2F
写真集『Tsukiji Zero』
■写真集『Tsukiji Zero』
¥2,000(税込) ふげん社写真展会場にて、300部限定発売
※遠方の方や、写真展期間中ご都合の悪い方の中で、ご購入希望の方には郵送も。メール→[email protected]
件名は「築地0景写真集予約」。・お名前・ご連絡先(メールアドレス、電話番号)・ご予約部数・会場にてお取り置きor郵送希望 いずれかを表記・ご送付先(通販ご希望の方のみ)を明記すること。
◆写真展関連イベント
・6月20日(土)13:30〜15:00(13:00開場) ギャラリートーク
新納翔(写真家)×渡邊博光(築地食べ歩きの達人)×佐藤洋一(早稲田大学教授 都市形成史専門)
各方面のスペシャリストをお迎えして、複合的な視点から築地を考える。
会場:ふげん社 写真展会場
参加費:ドリンク代500円(ご予約は不要です。当日受付にてお支払いください。)
山谷写真集『Another Side』
※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。