【和歌山】自殺の名所「深山陸軍墓地」名もなき兵士たちの想いの果てに…

 「旧深山要塞重砲兵聯隊陸軍墓地」と記され、色褪せて久しいその看板を横目で追いつつ、すっかり荒れ果てた細い小径を登り、暫く歩を進めると、急に開けた場所が現れる。ざっと見たところ、各40~50基ほどはあるだろうか。往時の兵士たちがそうであるように、ある程度、規則的な列を成した墓石は、既にその身を苔に蝕まれて朽ち、崩れているものも目立つ。傍らに置かれた用具入れにも「祈 先輩諸英霊の 霊安かれ 深山会」との文字も確認できる。しかし、戦場にて没した者たちの遺志を受け継ぐ形で、その後の時代を生き抜いたかつての戦友たちですらも没して久しい今、もはやその意味を知る者はさほど多くはないだろう。

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 ここに眠る英霊の多くは、かつてこの地に置かれた旧・陸軍の深山重砲兵連隊に所属していた砲兵たちのものだという。そのせいか、没年にはバラつきがあり、古くは日露戦争期、比較的新しいもので、大東亜戦争の時代のものも散見される。

 そうした墓石群の後方へと続く小径へと足を踏み入れ、さらに歩を進めると、そこにはもうひとつ、同じような墓地があった。切り開いた山肌に抗うようにして立つそれらの墓のひとつの目をやると、「明治三十七八」という文字が、また、その並びに立つ墓には、「故陸軍砲兵少尉正八位冨澤才之墓」の文字がそれぞれ確認できる。時を経て同じ要衝を守っていた砲兵たちが、その死後、一同に介しているという印象だ。また、そんな墓石の傍らには、すでに倒れて、そのままにされているものもあった。勝手に起すわけにもいかぬため、手を触れることなく眺めるにとどめたが、そこには、「陸軍砲兵一等卒古田覚太郎墓」という文字が刻まれていることが確認できた。無論、戦史においては、その名を広く轟かせることもなく散っていった兵士のものだ。倒れ、あまりに無造作な形で打ち棄てられたままとなっているその墓石は、古田氏の最期をなぞっているようで、どこか胸が痛む。

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 明治維新後、急速なる近代化を推し進めた末に仮初の隆盛を手に入れ、その成功ゆえに、日本は欧米諸国と衝突、やがて、絶え間なく続く戦争期へと突入していったことは、世人の多くが知るところであろう。その流れの中で、多くの日本人は勝利の美酒と、耐えがたい辛酸とを味わいながら、時として底知れぬ絶望感に打ちひしがれ、またある時はどこまでも続く焦げ臭い野原が広がる地に立ち、自らを奮い立たせることで、その後の再興を果たしたが、無論、そこへと続く道程は、この深山陸軍墓地に眠る無名の兵士たちを始め、多くの人々の犠牲の上に敷かれたものであることは言うまでもない。

「由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かな」

 歌人・曾禰好忠は、かつて風光明美なこの一帯の景色を眺めつつ、恋の歌を詠んだ。時を経て舟人たちは、その舵を砲に変え、恋することもままならずに、その命を終えた。今年で戦後70年。あの日、若き兵士たち事切れる刹那に夢見たであろう景色の中に、我々は今、立っているのだ。

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(写真/文=Ian McEntire)

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