変わり者キャラ、動物虐待、人体実験…名大理学部女子学生が“本当に人を殺す”までの真相とは?
■事件を犯した少女の生活
彼女は表向き、勉強のできる優等生であった。一方で、自分自身を、「僕」「俺」と呼び、ファッションなどにも気を使わない変わり者の人物として知られていた。凶悪犯罪にただならぬ興味を持ち、1997年に神戸で連続殺傷事件を起こした酒鬼薔薇聖斗や、2008年に秋葉原で無差別殺傷事件を起こした加藤智大を尊敬し、酒鬼薔薇に至っては、雑誌に掲載された顔写真を持ち歩いていたという。それでも、彼女の言動を本気で危惧する者は少なかった。
“マリーの友人たちの多くは、彼女が残酷なことや凶悪なことを思い浮かべていることをよく知っていたが、誰もが「マリーは妄想の世界の話を口にしたり、冗談を言っている」としか思っていなかったという”(p.130)(※マリーは著者が作中で犯人を呼称する仮名)
“冗談”はのちに事件を読み解く重要なキーワードだ。彼女は、クラスにひとりはいそうな“変わり者キャラ”という扱いだったのだろうか。それでも、のちの凶行につながる伏線は仙台時代にいくつも報告されている。
彼女は畜産学の研究者を父親に持っていた。ただし安定した職につけず、生活は不安定であったという。研究肌の父親は、子育てに対して放任主義であり、彼女は父親が持っていたお古の実験道具や、薬物をくすねて、祖母宅の離れに持ち込んでいた。
“中学生の頃から毒キノコや化学薬品について熱心に調べて、密かに収集するほどの“毒マニア”で、飼っていたハムスターやノラネコに自分で調合した薬品をかける実験も行っていた(愛知県警幹部)”(p.103)
“08年から4年間に少なくとも5匹の猫の変死体が発見されていた”(p.131)
当初は虫や小動物に向けられていた、実験対象は、やがて生身の人間に向かい、高校の同級生の男子生徒に硫酸タリウムを飲ませるようになる。劇物であるタリウムは、母親の実家のある山形県内の薬局で年齢を偽り、簡単に購入できた。タリウムのことを“タリちゃん”と呼び、周りに吹聴することもあった。彼女は、男子生徒の目を盗み、ペットボトルにタリウムを混入していた。
■男子生徒の飲み物にタリウムを混入する
男子生徒を選んだ理由は、たまたま隣の席で観察の対象となりやすかったためだ。誰かが憎い、嫌いといったはっきりとした理由はなく「誰でも良かった」のである。男子生徒はやがて自分の力では立てなくなり、視力も著しく低下、失明寸前となる。学校に復帰したものの、授業についていけず養護学校へ転校し、現在も体調は戻っていない。
騒動が起きた時、同級生たちの間では彼女の犯行が疑われたものの、受験を控えた時期でもあり、事件はうやむやとなってしまう。
さらに、高校での混入事件が起こる前、彼女の父親が、「娘が危ない薬品を所持している」と警察に相談している。(p.156)また、同時期には、小中学校の同級生の女性とカラオケに行った際にも、相手のドリンクにタリウムを混ぜている。(p.160)
これだけの伏線がありながら事件は起きてしまった。家庭、学校、社会、さまざまな事情が重なり、事件を未然に防ぐことができなかった。結果的に社会が彼女の狂気を見逃したといっても過言ではないだろう。
彼女がタリウムの存在を知ったのは、2005年に静岡県で発生した事件だ。女子高生が実の母親の食事にタリウムを混入させ、衰弱するさまを観察日記としてインターネット上にアップしていたのである。
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