変わり者キャラ、動物虐待、人体実験…名大理学部女子学生が“本当に人を殺す”までの真相とは?

■すべてコピーキャット! 思想なき犯罪

 結局のところ、彼女の犯行は、すべて既存の事件から影響を受けた模倣でしかないと見ることもできる。「人を殺してみたかった」というフレーズも、2000年に愛知県豊川市で発生した主婦殺害事件を想起させる。逮捕された17歳の少年は、「殺人を体験したく思い」犯行に及んだ。被害者となったのは68歳の主婦である。犯人と被害者の間に面識はなく、将来のある若い人間でなく、老人を狙った旨を供述している。無差別な殺人を行うにあたって、犠牲者の将来をおもんぱかる倒錯した論理がある。

 彼女の事件も、詳細を追うごとに、計画的なのか突発的なものかわからなくなる。その混乱は著者も正直に告白している。

“今までに幾つもの快楽殺人が起きているが、いずれの犯人も標的の性別や年齢、殺害・死体処理方法などにこだわりを持ち、同じような手口の犯行を執拗に繰り返していた。”(p.246)

 しかし、彼女の場合はこだわりが極めて弱い、もしくはほとんどないと著者は指摘する。そして、事件の動機を以下のように読み解く。

“「つまり、「殺してみた」「嘘だよ」「みたかっただけだよ」という軽いノリで、人を殺してしまった、というのである。私が本取材で追求してきたマリーの「心の闇」は、どうやら、とんでもないところに着地しそうな気配である。”(p.248)

 この記述の前には、ネット社会の発達による生身のコミュニケーションの衰退や、現実と妄想の区別がつかないゲーム的なバーチャルな感覚など、どこかで聞いたようなフレーズが並ぶ。現代社会の病理のパターンをさぐっても、彼女に当てはまるものがまったくない。そんな著者の困惑が見て取れる。それでも著者の指摘はおおむね正しいだろう。

 自分を「僕」と呼び、殺人や毒物への興味を周囲に公言し、“ネタ”“シャレ”“キャラ”の次元で変わり者としてふるまっていた彼女が、本当に人を殺してしまったというのが、事件の真相なのではないだろうか。

 それは元少年Aの公式ホームページからあふれでる「人殺しちゃってる俺ってスゲーだろ」という、不愉快なメッセージにも通底する。

 9月29日、名古屋家庭裁判所は、検察官への逆送致を決定した。2カ月におよぶ精神鑑定の結果、犯行の計画性、残虐性、責任能力などが認められ、成人同様の刑事処分が相当と判断されたのである。今後は、裁判員による公開裁判が行われる。彼女の口から真実が語られる時は来るのだろうか。異常な精神は矯正されうるのか。その前途が限りなく暗いことを本書は示している。
(文=王城つぐ/メディア文化史研究)

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