【ドヤ街レポート】山谷に降った小便の雨?おかしな磁場とものぐさ外国人の謎
■北海道にワイフを残して
バックパッカーという形ではなく、長期滞在する海外の方もいる。彼はちょっとウエスト周りがきつそうなことを除けばビシっとしたスーツにウォール・ストリートを歩いていそうなビジネスマンといったいでたちだ。
カナダ出身で、外資系会社で営業をしていることもあり日本語の方もかなり達者だ。彼は長期出張のたびに山谷の宿をビジネスホテルとして使い、長いと1年程泊まることもあった。うちの宿は山谷価格にしてはちょっと高い一泊3,000円。とはいえこれは建前上でだいたいが2.800円でやっていた。彼の場合は長期ということで2.500円までまけていた。とはいえこれで一月7万5000円なのだから他にもっと安くすませる手段はありそうなものだが、諸々の手続きを考えると山谷のほうがいいのだという。山谷は色々と割高なのだ。朝7時には宿を出て夕方遅く帰ってくるといった日本のサラリーマンのような生活スタイル。
宿に帰るとステテコのようなちょっとだらしのない格好でラウンジでビールやらワインを飲んでいた。
「ワタシはね、ワイフが北海道にいてね、娘もいるんです。でもジョブの関係でこっちに来ているのでーす。ワタシは凄いビジネスマンなんですよ。ハッハッハッハッ……」
と、酔うとやけに絡んでくる。
「ヨシワラ行きたいけど高いです、でもいきたい、いきたーい!」
酒が入っていないとキリッとした鋭い目つきなのだが、どうしてこうも人がかわるものかねと感心してしまう。
■変わらない枕カバー、突如起きた異臭騒動
布団は持ち込みなんて宿も見たことはあるが、たいていの宿は週一で布団と枕カバーの取り換えを行う。客のためでもあるし、宿としてもあまり布団を汚されると次の客に使えなくなるという事情もある。
その曜日になると皆ドアの前にたたんで一式置くことになっているのだが、どうしてか彼が出すシーツは交換したてのように真っ白なのだ。これが1カ月程度滞在する客であれば交換するのが面倒くさいのかと済ませてしまうが、宿としても長く交換されないと布団が汚れて業者に頼んで交換しないといけないのでオーナーはさいさん「古いシーツを出すように」と注意していた。
それでも言うこと聞かない彼にオーナーと彼の部屋に行くと、真っ黒な布団カバーがひきっぱなしの布団に乗っていた。部屋はゴミ屋敷のように荷物が散乱していてとても「できるビジネスマン」といった感じではない。そう、かれは「相当な面倒くさがり屋」だったのだ。
その頃である、我が宿で異臭騒動が起き始めたのは。山谷のドヤは帳場さんが住み込みで働くことが多いので、受付の後ろは普通の居住空間になっているのが往々だ。私の宿は台所含め6畳の部屋が3つあって十分に家族で暮らせる広さがあった。24時に帳場のシャッターを閉めると、釣り銭の確認などをして朝までは一番奥の和室に布団を敷いて寝るのだ。しかし、ある頃からものすごい異臭がどこからともなく入ってくるようになり、とてもじゃないけど寝ていられない異常事態が発生。スタッフは皆困惑し、原因はなんだろう、猫のおしっこではないか、なんか下水管が詰まっているのでは? となかなか真相にたどり着くことが出来ず2カ月ほどたった。
その間、あまりの悪臭に私は、フロントの机の下に潜って寝たこともあるほどだ。だが、おかしなことに雨が降ると臭いが落ち着く、どうにも野良猫の仕業なのではないかと色々仕掛けを作ってみたがやはり天気が続くと臭いが出てくる。
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