元祖アスキーアートの神 ― 70年間タイプライターを打ち続けた脳性麻痺の男・ポールのポートレイト
家族とバミューダに行った時の思い出からインスピレーションを受けて制作した作品。タイプライターの記号をうまく使い分け、何度も紙の向きを変えながら打ち込んでいく。言われなければこれがタイプライターによる作品だとは気づかないかもしれない。各作品には「TypeWriter Art by Paul Smith」とタイトルが打ち込まれている。
■生まれつきの脳性麻痺を乗り越えて
ポールは生まれつき重度の脳性麻痺で、出生時に医師は「長く生きることは難しいだろう」と両親に告げた。障害のせいで手足を満足に動かすこともできず、絵を書くことはおろか、文字を書くことすらままならない状態だった。普通の子どものように十分な教育を受けることもなかったポールだが、15歳にして初めて出会った一台のタイプライターが彼の人生を変えることになる。左手で右手を固定し、「 “@ # $ % ^ & * ( ) _”.」といった10のキーだけを使って作品を作っていった。時にはカラーのインクリボンを使い、同じ紙に何回も繰り返し打ち込んでいくことで作品を完成させていった。
白内障が悪化し、作品制作ができなくなる2004年までの70年間で数百にも及ぶ素晴らしい作品を残した。家族と旅した思い出、様々なポートレイト。彼は脳性麻痺によって自ら表現できなかった気持ちをタイプライターを通して思い出として残したのだ。
「何かをすること。私のタイプラータの才能は神から頂いたものなのです」と信心深いポールは語る。
「あなたにはできない、と言われたら私はこう返します。それでは、あなたは何ができるのですか?」
と。創作こそが己の生きている証だと語る。
ポールは1967年から亡くなるまで、オレゴン州のローズヘブン看護センターで暮らしていた。介護なしではひとりで食事や入浴も困難なポール、1分間に打てるのはせいぜい12文字程度。なんとか話せるようになるまで32年もの歳月がかかった。医師の予想に反し、彼は2007年86歳で天寿を全うすることになるのだが、ポールにとってローズヘブン看護センターの職員や患者は家族同様だった。
生まれながらにして大きなハンデを背負ったポール。しかし人は思いさえあれば必ず苦難を乗り越えて、夢を実現できるということをポールは示してくれている。ポールの残した作品だけでなく、彼の生き様も後世受け継がれていくことを願うばかりだ。彼の作品は出版などされることなく、今でもローズヘブン看護センターの廊下に展示してある。多くの作品は、FaceBookページにて見ることができる。
(アナザー茂)
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2024.10.02 20:00心霊元祖アスキーアートの神 ― 70年間タイプライターを打ち続けた脳性麻痺の男・ポールのポートレイトのページです。アナザー茂、脳性麻痺などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで