50年前に起きた重大UFO事件に新展開か? 「ウェストール事件」の目撃者が“黒いスーツの男たち”について語りはじめた=オーストラリア

■事件当日の公式の記録は“空白”ばかり

 1966年当時、10歳前後だった目撃者たちは現在、60歳前後になりつつある。一方当時の教職員たちの半数以上は今や故人になってしまったということだ。

 そこでライアン氏は、生徒や教職員以外の客観的な証拠を求めて地域全体に残された記録を広くあたってみることにしたのだった。当時この事件の直後に学校にテレビニュースの取材が入っており、放課後にテレビレポーターがUFOを目撃した生徒たちから話を聞いたニュースは確かにオンエアされたという。しかしテレビ局「チャンネル9」のフィルム保管庫にはこの時のフィルムだけは残されていなかった。そして近郊のメルボルン空港の記録にも、この日に付近上空で未確認飛行物体が確認された記録は一切残されていないという。唯一残されている客観的な記録は、当時の新聞の紙面だけである。そしてそれらのメディアによると、米軍などが開発中の極秘の軍用機の試験飛行だったのではないかという見解が主流となっている。

 そこでライアン氏は学校周辺の民家にポスティングを行って情報提供を求めたり、軍事歴史家やUFO研究家、暴露運動家などを幅広く取材する。取材に応じてくれた人々と話すうちに明らかになったのは、ウェストール事件当日のあらゆる公式の情報がことごとく“空白”であるということだ。さらに広範囲に取材を行ううちに絞られてきたウェストール事件の真相、その可能性は下記の3つだ。

1. から騒ぎ、あるいは集団ヒステリー

2. 軍が秘密裏に開発中の実験機

3. 地球外から来た飛行物体

 取材を続けるうちに、ライアン氏としては1と2の可能性は否定せざるを得なかった。とすれば、やはり正真正銘のUFOなのか……。

■校長室で黒いスーツの男に尋問された女子生徒

 真相究明の袋小路に入り込んでいたライアン氏へ、アメリカの有志から届けられたのは、米・アリゾナ大学の研究者であった、故J・E・マクドナルド博士が残したオーストラリアでのUFO調査記録の数々である。

 米・ミネソタ州ダラス出身の気象学者、J・E・マクドナルド博士(1920年~1971年)は、ケネディ大統領政権下の科学顧問となり、政府のもとでUFOについて数々の極秘調査を行っていたといわれている。実際に1968年に米下院の公聴会、いわゆる「UFOシンポジウム」で、1940年代末から1960年代半ばまでの重大なUFO事件のレポートを議会で発表している。そしてマクドナルド博士はウェストール事件を調査するために秘密裏にオーストラリアも訪れていたのだ。その時に博士が書き留めた文書や目撃者へのインタビュー音声などの貴重な資料が、ライアン氏のもとへ送られてきたのである。そこには、国内メディアには一切口を閉ざしていた数学教師のインタビュー音声も残されていた。ちなみにマクドナルド博士は1971年に51歳の若さで自殺したことになっているが、“知りすぎた男”として暗殺されたのだという主張も根強い。

 停滞を余儀なくされていたライアン氏の調査も思いがけないマクドナルド博士の“置き土産”で進展を見せることになる。博士の記録に残っていた、最もUFOに近づいた3人の生徒の1人である女子生徒のジャクリーヌ・アージェントさんは、事件の翌日に校長室に呼ばれて、校長と見知らぬ2人の黒ずくめのスーツの男たちの前で尋問を受けたという。

「空飛ぶ円盤を見たのよ!」と彼女は昨日目撃したものを正直に語ったが、男たちはまともに相手をしてくれず、「君は漫画の宇宙人を見ていたんだね」とあしらわれたということだ。その夜アージェントさんは、家でこの一件を話すと彼女の両親はひどく怒りをあらわにしたということだ。

 数々の貴重な証言と発見を見いだしながらも、ライアン氏の追究はいったんここで幕を閉じることになる。ライアン氏はあくまでもアマチュアのジャーナリストであり、取材当時には新たな家族が生まれた事情もあった。ウェストール事件の真相を究明する活動に残念ながらこれ以上専念できなくなったのである。しかし、当時UFOを目撃した往年の生徒たちや周辺住民はまだまだ多く存在している。この目撃者の多さが、他のUFO事件とウェストール事件の決定的な違いである。今後の調査の進展と新たな証拠の発掘に期待したい。
(文=仲田しんじ)

参考:「EWAO」、「Herald Sun」ほか

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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