『The Folk』(リトル・モア)
民俗学などに興味がある人を除き、多くの日本人は「獅子舞」や「神楽」といった民俗芸能を「ダサい」と思いがちだろう。だが、そんな人こそ、写真家・西村裕介による写真集『The Folk』(リトルモア)を手にとって見てほしい。黒幕を背景に撮影された民俗芸能の写真は、その衣装の鮮やかさ、動きの躍動感、そして、洗練された「かっこよさ」をあなたに感じさせてくれるだろう。いったい、なぜ西村氏は民俗芸能の世界へとレンズを向けたのだろうか? そして、あたかも広告写真の如くに洗練されたこの写真から、彼は何を伝えたかったのだろうか? そこには、民俗芸能に対する「恐怖」という感情が影響していたという……。
鬼木の臼太鼓踊り(熊本県)
――西村さんが民俗芸能を撮影しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
西村裕介(以下、西村) もともと、全く民俗芸能に触れたことがなかったのですが、2012年に、明治神宮で行われた『明治天皇百年祭~郷土芸能奉納』というイベントに足を運んだのがきっかけです。これは、岩手県の「大槌の虎舞」や「金津流獅子躍」など東北各地の郷土芸能が集まって奉納を行う祭りでした。夜の境内で奉納される芸能の照明は、松明とろうそくだけ。そこには、暗闇の中で力強くうごめく民俗芸能の姿があったんです。間近で見ていると、息遣いまではっきりと聞こえてくる。それはとても「怖い」経験でした。