マイク・ダウドという最凶の男 ― 米国史上最悪の警官が築いた「ドラッグ帝国」

 アル・パチーノ主演、シドニー・ルメット監督で1973年に公開された映画『セルピコ』は、警察組織の汚職に立ち向かう、正義感の強い警察官が主役だ。これは実話を元にしたノンフィクション作品であり、実在のセルピコは、警察の汚職を告発した人物として、アメリカではその名が知られている。

 しかし、このセルピコとは全く逆に、史上最悪のダーティー・コップとして知られた人物がいる。男の名前はマイク・ダウド。警察の権力を傘に、悪行の限りを尽くしたこの男は、巨万の富とアメリカ警察史上に残る汚名を手にした。これは、一介の警察官がギャングスターへと成り上がっていった真実の物語だ。

■ポリスギャング・ダウトのスタート

マイク・ダウドという最凶の男 ― 米国史上最悪の警官が築いた「ドラッグ帝国」の画像1※画像:『mirror.co.uk』より

 1980年代のニューヨークは、人種間での争い、いざこざが絶えず、治安の悪さと貧困層の拡大が大きな問題となっていた。そんな時代の中、マイク・ダウドは82年にニューヨーク市警に採用され、警察官としてのキャリアをスタートさせた。

 街中を巡回して、犯罪者を取り締まるのがマイクの主な仕事なのだが、当時のニューヨークでは、ギャング集団による犯罪、発砲事件は日常茶飯事であり、決して楽な仕事ではなかった。

 そのような労働環境にもかかわらず、若い警察官の給料は安く、妻と子供を養っていたマイクは、生活費と住宅ローンで給料があっという間に飛んでいく現状に失望していた。

 そんなある日、単独でパトロールしていたマイクは、不審な車を発見したため、路肩へ停車するよう命じた。その黒いコルベットに乗っていたのは、18歳の少年だった。マイクが取り調べると、少年はプエルトリコからの移民で、車の登録証も車検証も所持していなかったため、その車が盗難車であることは明らかだった。その上、少年のポケットからは100ドルの札束がはみ出していた。

「自分よりも若い移民の子供が、法を犯し大金を持っているなんて…」

 この時、23歳のマイクが所持していたのは、たったの5ドル。不条理な現実を目の当たりにしたダウドの正義は、もろくも崩れ去った。

「君がロブスターのランチを奢ってくれたら、この場は見逃してやるよ」

 その言葉を汲み取った少年は、マイクに200ドルを差し出し、走り去っていった。

 この一件がきっかけとなり、ダウドは警察官という立場を利用しながら、犯罪に手を染めていった。

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