我欲の欲するままに男を殺し続けた「明治の毒婦」高橋お伝の墓に参拝客が絶えない本当の理由

■毒婦・高橋お伝の波乱万丈の生涯

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 墓の横に立てられたプレートに、高橋お伝の経緯が記されている。彼女は夫を殺害した後に各地を放浪。そして逃走先で知り合った男性も殺害、金品を奪った。その後に捕らえられ、三十歳の若さで斬首刑にされたという、彼女のあまりに波乱に満ちたその人生と、彼女の墓を詣でることで三味線が上達するというジンクスから、参拝客が後を絶たず、いつでも花が手向けられていることが記されている。事実、筆者が訪れた際にも、その墓前には瑞々しい仏花が手向けられていることが確認できた。だが、結論から言ってしまえば、この場所にお伝の遺骨は、その欠片すら葬られていない。

 谷中の墓に添えられた銘板が示すように、お伝の生き様はまさに波乱万丈という言葉そのものであった。嘉永3(1850)年、現在の群馬県利根郡みなかみ村にあたる上野国利根郡下牧村に生を受けた彼女は、貧しい生家の事情ゆえか、すぐさま養子へと出された。その後の慶応2(1867)年、同郷の知人であった高橋浪之助と結婚。横浜へと居を移し、浪之助との新婚生活に入る。しかしそんな彼女の幸せはそう長くは続かなかった。

 江戸幕府が滅んで明治政府による新しい時代が幕を開けたばかりの明治5(1872)年、夫である浪之助が、癩病を煩い若くして他界するという憂き目に遭ってしまったのだ。夫を亡くしたお伝はその寂しさからなのか、やがて流れ者のヤクザ・小川市太郎と恋仲となり、淫蕩三昧の日々を送ることになる。しかし、そのやさぐれた暮らしの中で借財が嵩むと、今度は愛人契約と引き換えに借金の肩代わりを申し出た古物商・後藤吉蔵の誘いを受け入れ、ついに彼と一夜を共にすることとなった。だが、いざその晩になってみると、吉蔵は心変わりしたのか、金を出せないと言い出す始末。激高したお伝は剃刀で彼の喉元を掻き切ると、金を持って逃走することとなった。その後、ほどなくしてお伝は捕らえられ、先述したように斬首されることとなったが、巷では病没した夫についても、彼女が殺害したという噂が実しやかに囁かれるようになり、いつしかお伝は「明治の毒婦」という、なんとも不名誉な称号で呼ばれるようになってしまったのである。

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