「パレスチナは日本人に失望している」国際手配された映画監督・足立正生インタビュー

「パレスチナは日本人に失望している」国際手配された映画監督・足立正生インタビューの画像3足立正生監督

■命懸けの撮影エピソード

――俺は若松孝二監督も大ファンなんですが、若松監督とのお話など聞かせてもらえませんか?

足立 なんて言ったらいいかな?若松さんは断食芸人みたいな映画は嫌いなんだよね。主人公の断食男にグーっと入っていって、見張って立っている看守人がいたら、最後は断食芸人が看守の機関銃を取り上げて撃ち殺して姿を消すという感じ、これが俺が思い描く若松映画(笑)。

――わかりますねぇ!

足立 要は主人公の中に入って行かないとやれない。あるいは、普通の劇映画、ドラマっていうのは、主人公が我慢できないことがあって、それに向かって闘うなり解決するなり、突っ込んでいってそれがどうなるか? 最後に大勝利をすると裕次郎になるけど、討ち死にといったら若松になる(笑)

 そういう作劇をするのが普通の映画なんですよ。だけど私の場合は、そういう脚本は若松用にいっぱい書いてきて、自分の映画もそれに近いものがあるけれど、私自身はそこから逸れていってしまう。銀河鉄道に繋がって、銀河鉄道に乗って走り出すので。

 だから若松さんとはちょうどいいバランスだったよね。

 カンヌ映画祭の帰りにパレスチナに取材にいってね。カンヌに行ったのは、日本映画監督週間に招待されたから。「カーマ・スートラ」というインドの性典を映画にして「儲かったんでどう使う?」っていうんで「じゃぁ、カンヌ映画祭の帰りにパレスチナにいって、ゲリラ地帯最前線を取材して帰ってこようよ」ということだった。若松は「生きて帰れるか?」と聞くので、私はまだ何も知らないのに「もちろん生きて帰れるよ」って。

「俺は記録映画にしちゃうからさ」って言ったら「それじゃ残りカスのフィルムで俺はテレビ番組3本つくる」とか言って張り切ってね。

――足立監督はパレスチナで若松監督を先に帰したじゃないですか。

足立 私はまだ取材を続けたかったしね。それに、誰かが撮りためてたフイルムを持って帰って現像しないといけないから。「俺が撮影でくたばったら、現像してつくりあげられるのはプロデューサーのお前(若松)しかいない」と説得した。

 ある前線基地で、「やっぱりイスラエルまでいこう」っていう話もあったんだけど、1人だけしか行けなくて。重信(重信房子。元日本赤軍最高幹部)も候補には入っていたけど、女だからダメだということになった。ということで、若ちゃん(若松監督)には現像という仕事が残っているし、重信は女ということで、結局私がイスラエルの入植地キブツの近くまで作的作戦をやるのには出かけた(笑)。撮影のときにそういうのはいっぱいありましたよ。

――ものすごい経験ですよね。日本にそんな人いないですよ。

足立 1971年だから世の中みんなベトナム反戦でね。パレスチナに行くのはいいんだけど「どういうテーマでいくんだ?」って言うから「なんでもいいんだよ若ちゃん。とにかく、新宿の酔っぱらい2人がゲリラ最前線にいくから、新宿の酔っぱらいがゲリラになれるか?これでいくんだから!」「おお!それはわかりやすい!」って(笑)。

――メチャメチャ凄いですね(笑)それをやっちゃう人なんていないですよ。

足立 だけどゲリラなんて、なんでもできないとダメだから「酒で酔っぱらえないとゲリラになんかなれない」という結論が最初からあった(笑)。

――(笑)それがあったから、ゲリラに受け入れられたってこともあるんですかね?

足立 真面目なシーンもあったよ。若松が柔道、俺が空手教えて。俺の空手はケンカ空手で、寸止めとかしないからちょうどいいわけよ。

 あとは、トンネルを10日間掘ったりね。若松は「いいや、14日間掘らされた」って言ってたけど(笑)。ベトコンと同じように山の中腹からイスラエルが占領しているパレスチナへずーっと掘っていってね。そういうのを来る日も来る日もやって、石灰岩だからもう真っ白になる。そうやってトンネル掘ってイスラエルまでいったね。

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