1000人殺害、大臣暗殺、家にライオン…世紀の麻薬王エスコバルが世界7位の富豪になった理由とは? ジャーナリスト・伊高浩昭インタビュー

 エスコバルの家には、動物園まであったという。

ステータスシンボルとして、遠いアフリカから、南米大陸にいない、ゾウ、ライオンなんかを船で運んでくるわけですよ。もう1つは、ライオンの小便が、警察犬の鼻を鈍らせるとか、おじけさせると信じてた。百獣の王だからということで……。これは単純明快な迷信ですけどね」

麻薬によって自分の王国を築いたエスコバルだが、民衆には慕われてもいたという。

「コロンビアで、多くの貧しい人々は大学も行けません。日本で言えば小中学校くらいが精一杯。すぐに働きに出されます。この人たちにとって社会的上昇というのはほとんど望めない。この多くの人たちにとって、同じような境遇にありながら、いい悪いは別にして財をなして、世界的に有名になって貧しい人々にお金を恵んでいるエスコバルは、同じ郷土の人間として、大変な出世頭。だから、憧れるんですね。エスコバルは、学校や病院を建てたり、道路を作ってアスファルト舗装したり、橋のないところに橋を架けたりした。麻薬で儲けたお金でやっているわけですけど、政府がやってくれないことをエスコバルがやった。ひとつの共同体みたいなものを作り上げて、その上に乗っかってたんです。だからエスコバルが死んだ時は、たくさんの人が喪に服したり、祠に彼を祀ったりしたんです」

 エスコバルが建てたものの1つに刑務所がある。彼はそこに自分で入った。

1000人殺害、大臣暗殺、家にライオン…世紀の麻薬王エスコバルが世界7位の富豪になった理由とは? ジャーナリスト・伊高浩昭インタビューの画像4©2014 Chapter 2 – Orange Studio – Pathé Production – Norsean Plus S.L – Paradise Lost Film A.I.E – Nexus Factory – Umedia – Jouror Developpement

「エスコバルが一番恐れていたのは、身柄をアメリカに送られることだったんです。新しい大統領が政権について憲法を直して、コロンビア人の身柄は外国に移送しないという条項を設けたんです。エスコバルは、身柄を引き渡さないという条件を確認して自首した。エスコバルへの圧力はどんどん強まっていたけれど、刑務所に入っていれば、それを犯してまで殺すということまでしないと思ったんでしょうね。だけど並の刑務所じゃあ嫌だから、自分で作った刑務所に入った。日本人から見たら避暑地の別荘みたいなものですよ。その上、エスコバルはビリヤードをやりに行ったり、恋人に会いに行ったり、ボディガード付きで自由に外出してたんです」

 だが自由な刑務所生活から、エスコバルは脱出する。

「しだいにアメリカの圧力が強まってきて、周りの連中が捕まって殺されたりして、アメリカに身柄を送られたりしてたんですよ。それを見て、外国に移送しないという約束をいつまで政府が守るか分からないと思ったんでしょうね。それでついに脱出したんです。それで結局は電波の盗聴で居所を突き止められて、追い詰められて殺されたんです」

 エスコバルの死後、麻薬戦争はどうなったのか。

1000人殺害、大臣暗殺、家にライオン…世紀の麻薬王エスコバルが世界7位の富豪になった理由とは? ジャーナリスト・伊高浩昭インタビューの画像5©2014 Chapter 2 – Orange Studio – Pathé Production – Norsean Plus S.L – Paradise Lost Film A.I.E – Nexus Factory – Umedia – Jouror Developpement

「エスコバルが率いていたメデジンカルテルの他に、カリカルテルという大きな麻薬マフィアがあったんです。政府は、この2つを対立させていた。カリカルテルがメデジンカルテルの情報を政府にやったりしていた。ところが1993年12月にエスコバルが死んでメデジンカルテルがつぶれたら、カリカルテルをつぶせってアメリカが圧力かけてきたんです。政府は、カリカルテルの連中を捕まえてアメリカに送ったりして、カリカルテルをつぶした。それでどうなったかっていうと、メキシコに拠点が移った。メキシコとアメリカは国境を接してますから、トンネルを掘るなり何なりして密輸するわけです。そのある局面を捉えたのが、5月上旬公開映画『カルテル・ランド』です。

 メキシコの場合、大臣が殺されるということはないけど、市長、市議会議員、軍の幹部、弁護士、検事、ジャーナリストが殺されてますね。大きなカルテルが5つ、小さいものも含めると30くらいあって、群雄割拠が続いている。政府が適当につぶしたり生かしたりしながら、賄賂を受け取ってるわけです。国会議員が賄賂をもらっていて摘発されたということもありました。そういう麻薬汚染状況っていうのは、なかなか直んないですよ。コカイン作れば、売れて儲かるからダメなんですよ。それがある以上、治安を100%回復するということは、これはとても難しいですね」

 伊高浩昭氏は、『青春のメキシコ 激動と不安と貧困と』(泰流社)、『Cuba砂糖キビのカーテン』(リブロポート)、『メヒコの芸術家たち シケイロスから大道芸人まで』(現代企画室)、『コロンビア内戦 ゲリラと麻薬と殺戮と』(論創社)、『ラ米取材帖 ラテンアメリカ』(ラティーナ)、 『チェ・ゲバラ 旅、キューバ革命、ボリビア』(中公新書)など、ラテンアメリカに関する著作を多く記している。
(取材・文=深笛義也)


■『エスコバル/楽園の掟』
3月12日より、シネマサンシャイン池袋ほか全国順次ロードショー
http://www.movie-escobar.com/index.html

監督:アンドレア・ディ・ステファノ 製作:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ハッチャーソン 音楽:マックス・リヒター 撮影:ルイ・サーサンズ 編集:デヴィッド・ブレナー
出演:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ハッチャーソン、クラウディア・トレイザック、ブラディ・コーベット、カルロス・バルデム
 

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1959年東京生まれ。横浜市内で育つ。18歳から29歳まで革命運動に明け暮れ、30代でライターになる。書籍には『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』(すべて鹿砦社)、『罠: 埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった』(サイゾー)がある。ほか、著書はコチラ
Twitter:@giyagiyagiya

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