官能シーンが“扇情的すぎる”という理由で封印!? 強迫神経症の映画監督が作った問題作とは?

官能シーンが扇情的すぎるという理由で封印!?  強迫神経症の映画監督が作った問題作とは?の画像2※画像:『Wikipedia』より

 さて、そんなハワード・ヒューズがプロデュースした作品には、上映に際して問題が発生したものが存在する。まず1931年、『リオ・ブラボー』(59年)などジョン・ウェイン主演の名作西部劇などで有名なハワード・ホークス監督のギャング映画『暗黒街の顔役』(原題『SCARFACE』)が、過激な暴力描写や近親相姦を彷彿とさせる内容が問題となった。

 映画を検閲する映画製作倫理規定管理局を擁するアメリカ映画制作者配給者協会(会長ウィル・ヘイズにちなんでヘイズ・オフィスと呼ばれた)は、ヒューズやホークス監督の承諾なしにシーンの撮り直しを強いて(アメリカの検閲って、けっこう横暴)、翌年にようやく公開された。原題を見てピンときた映画ファンもいるだろうが、ブライアン・デ・パルマ監督、オリヴァー・ストーン脚本、アル・パチーノ主演の『スカーフェイス』(83年)は、この作品のリメイクだ。

 そして同じホークス監督の『ならず者』(43年。日本公開52年)は、西部開拓時代の伝説的アウトロー、ビリー・ザ・キッドが題材だ。ヒロインには巨乳で野性的な眼差しのグラマー女優であるジェーン・ラッセルをオーディションで選出している(ヒューズお気に入りなので出来レースの可能性も!?)。当初はホークス監督で撮影が進んでいたが、途中からヒューズが盟友ホークスにダメ出しして自ら演出を交代。宣伝のために胸元を大きく開けたジェーンのブロマイドを大量に作り、第二次大戦の戦場にいる兵士たちにも配布するという熱の入れようだった。

 だが作品は、官能シーンが「扇情的すぎる」と(あくまで当時としては)、またもヘイズ・オフィスの倫理規定に引っ掛かり、メジャー会社全てから配給を断られてしまう。仕方なくヒューズは自分で劇場を借りて1週間自主上映したが、キリスト教系宗教団体の圧力で上映禁止に追い込まれ、さらには裁判にまで発展した。

 1948年、5年越しの裁判に勝ったヒューズは大枚叩いて、『キング・コング』(33年)やオーソン・ウェルズ監督『市民ケーン』(41年)で有名なRKOの株式を買い占め、会社ごと乗っ取りを敢行する。ヒューズがRKOに目を付けた理由は、日本では知られざるホラーの旗手ヴァル・リュートンという怪プロデューサーによるアンモラルなホラー、『キャット・ピープル』(42年)、『恐怖の精神病院』(46年)などが、うまく米倫理規定の裏をかいて公開されていたからだ。「いわく付き作品」を配給するには好都合で、社長に収まったヒューズは自分の手で『ならず者』の配給を実現させたのだ。金が物を言うだけでなく、そういうヒューズの読みと執念には唸るものがある。

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