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実力者の家の娘をもらい受けるや、江戸時代の“五人組”制度よろしく、住民同士を相互監視を行うように仕向けたり、勝手な課税までも行っていたという謎の人物・N。やがてその専横ぶりは常軌を逸したものとなり、彼の“私税”を滞納する家は、女房子供まで上納するハメになっていたという。
「うちもちょうど一番上の姉さんが、娘盛りの頃でしてね。泣き叫んでいるのに、無理やり連れて行かれたのを、今でも覚えていますよ……」
その後、しばらく専横ぶりを発揮し、多くの人々を不幸のどん底へと突き落とし続けた“N”。しかし彼によるこの村の“暗黒史”ともいうべき日常は、なんとも呆気ない形で、ある日突然、幕を引くこととなった。
「あれは私が12、3ぐらいの頃でしたかね。ある夏の大雨が降った翌日の朝、下流の方で“N”の土左衛門(※水死体・溺死体のこと)が流れ着いているのが見つかったんです。……いえ、詳しいことは私もよくわかりません。なにせ、当時はまだ、私も子供でしたから」
アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の映画『ボーグマン』では、菅田さんが言うところの“N”よろしく、乞食同然で転がり込み、それまで幸せそのものだった一家を、いとも簡単に陥れる姿が描かれていたが、こうした事例を見る限り、やはりいつの時代も、どこの国でも、こうした謎めいた軌跡を辿る人物というものは、不定期で現れては消えるものなのかもしれない。
(取材・文/戸叶和男)
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