キメセクよりも孤独のエクスタシーの方が気持ちいい――「覚醒剤と妄想とASKA」を石丸元章が語る!
超大物ミュージシャン・ASKA、プロ野球界の番長・清原和博、2大スターの覚醒剤による立て続けの逮捕は、日本中に激震を走らせたと同時に、人々のドラッグへの恐怖や関心も高めた。「ダメ。ゼッタイ。」というキャッチフレーズがつくほど、ドラッグに1度手を出したが最後、精神や肉体は崩壊し、人間関係、社会的信用、お金……など多くのものを失ってしまう。
特に覚醒剤は、1度ハマると決して抜け出せない「悪魔の薬」と言われているほど、多くのものを失う。そんな悲惨な末路を迎える可能性が高いドラッグに、人はなぜ手を出してしまうのだろうか?
作家・石丸元章氏は、1990年代からドラッグを取材し続け、『スピード』『アフター・スピード』で自身のドラッグ体験を綴り、その後も多数のドラッグに関する書籍を出している筋金入りのドラッグジャーナリストである。また、自らをも当事者として取材対象に身を投じる作風から、GONZO・ジャーナリストとも呼ばれている。そして何と、2014年の一時期、氏はASKAと同じ精神病院で薬物依存治療を受けていたのだという……。
石丸氏の新著『覚醒剤と妄想 ASKAの見た悪夢』(コア新書)は、氏がドラッグというフィルターを通して得た妄想についての知見を、文学や哲学、さらには量子力学までをも引き合いに出しつつ独自の理論として纏め上げた、奇書である。そして、ASKAと精神病院で過ごしたというシュールで濃密な時間を綴った貴重なレポートでもある。
出版記念インタビュー第1回目は、石丸氏にドラッグ依存症の戦慄の真実、ドラッグとの向き合い方、芸能有名人がドラッグにハマるワケ、大麻合法化問題などドラッグをテーマに大いに語ってもらう。
■ASKAと薬物依存症治療の入院生活
――まずは、新著『覚醒剤と妄想』についてのお話から伺いたいと思います。
石丸 本を書くことになった背景にはさまざまなことがあります。一番大きいところとしては、自分が脱法ドラッグで薬物依存症になって妄想状態に陥り、そして、精神病院の閉鎖病棟に入院して、そこでASKAさんと出会った……と、という本を書く上で必要な偶然と必然に遭遇したことですね。
――新著の中にも書かれてますが、ドラッグの取材を始めたら、自らも薬物中毒に陥ってしまったんですね。当初の目的としては、薬物関係のスクープ狙いでもあったのでしょうか?
石丸 自分は、どんなことを取材するにしても、目の前で起きている事柄の本質を探る――。というテーマが同時にあるんですね。ドラッグというものは、たった数ミリの物質を摂取するだけで、違う自分になり、世の中との関係が変わってしまうような、極めて特殊な物質なんですね。『自分とは何か?』『人間とは何か?』『社会とは何か?』という本質的なことを問いかける時に、ドラッグというのはツールとして面白いんです。
実は、ドラッグを使って、実験的な手法を取った作家たちがたくさんいるんですよ。たとえば1950年代から60年代のアメリカ文学をリードした文学者たちは、作品の中にしきりにドラッグを持ち込みました。
あるいは約1000年前のイランには、オマル・ハイヤームという詩人がいたんです。イランは、禁酒国なのですが、ハイヤームは酒を飲んで宇宙を見ながら、『俺は意味もわからず生まれてここにいて、意味が分からないから酒を飲もう。どうせどこに行くのかもわからないし』ということを『ルバイヤート』という詩に書き綴っているんです。心に響く、すごく素晴らしい詩なんですが、酒もまた禁止されていればドラッグのようなものとも言えますよね。
そうした人たちの影響下にあった若い頃、自分は『世の中に大きなショックを与えることで、良識ぶった奴らの顔を衝撃でぶんなぐってやる!』というように、センセーショナルな作品を書きたいという強い思いを抱えていたんです。それで、ドラッグをツールとして自分たちの生活というものを描いてみることに挑戦した、というわけです。
2001年に出した『スピード』(文藝春秋)は、自身のドラッグ体験を綴った私小説的ノンフィクション作品で、これはベストセラーとなりました。
――そして、『スピード』の後も、覚醒剤やドラッグを取材しつづけて、今回の新著を出すことになったということですね?
石丸 まあ、その間にもドラッグに関する本は何冊も出しているですが……。ようするに自分は、ずっとドラッグを表現のツールとして使い続けてきたんですね。
――ドラッグから離れられないということですか?
石丸 I don’t like the drugs but the drugs like me. (注1)と、マリリン・マンソンは、うまく言ったものでね。自分はドラッグが好きじゃなくても、ドラッグが自分のことを好きなんですよ(笑)。ドラッグは、やった瞬間に世の中が違って見えて、世の中のいつもとは違うクレイジーな側面に触れさせてくれる。つまり、現代社会の裏の顔を描こうという時に有効なんですよ。
(注1):アメリカのミュージシャン マリリン・マンソンのドラッグ依存症の歌
■ドラッグが溢れていた90年代
――石丸さんが、最初にドラッグに手を出されたのは『スピード』を出された90年代の話ですね。当時は、どこで入手できたんですか?
石丸 90年代のある時期を境に、ドラッグが街中に溢れ出したんです。それ以前は、芸能人などが持っている特殊なルートや、ヤクザなどのいわゆる反社会的勢力との深い付き合いがないと入手できなかった。しかし、1988年、イラン・イラク戦争の休戦にともない、たくさんのイラン人が仕事を求めて日本に流れて来るようになり、状況が大きく変わったんです。
イランは、禁酒国です。だからイラン人は、ハシシ(大麻樹脂)などを日常的に使っていたんです。あと、民間薬としてアヘンも持っていました。最初は、彼らの中だけで使われていたのですが、我々が求めると売ってくれました。しかしやがて、ドラッグの密売人としての有用性に気付いた反社会的勢力が、覚醒剤の密売人としてイラン人を組織的に利用するようになっていったんです。
――イラン人が、街なかで堂々とドラッグを売っていたんですね。
石丸 当時は本当にすごかった。新宿駅構内にイラン人の集団が50人ぐらいいて、全員が売人でした。1段に1人ずつ階段にずらっと立っていて、まさに買い放題だったんです。一単位5000円ぐらいで買えましたね。
――今では、考えられない状況ですね。そういえば昔、渋谷のセンター街で小さな露天を出して、幻覚キノコを売っていたのは見たことありました。
石丸 それは、日本人の脱法ドラッグの走りですね。90年代はまだマジックマッシュは薬物認定されていませんでしたから。自分もずいぶん遊びましたよ。だけど今は、脱法ドラッグはダメ。薬事法違反で逮捕されちゃいます。
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