25年間迷子だったインド人少年「サルーの数奇な人生」! 絶望、人身売買、誘拐…グーグルアースを使って帰宅するまで
■養子としてオーストラリア・タスマニアで育つ
大都会の街で孤児になってしまったサルーは、それでもさまざまな試行錯誤を繰り返してなんとか地元の町へ帰ろうとした。しかしその試みはいずれも危険と隣り合わせで、ガンジス川で溺れそうになったり、人身売買をたくらむ男にあわや誘拐されそうにもなったという。
街に放り出されて1カ月あまり路上での生活を余儀なくされていたサルーは、ついに当局によって保護され、孤児院へと送られることになった。ただ、この時点でほとんど読み書きができなかったサルーには、生まれ育った田舎町についての情報をほとんど伝えられず“帰宅”は絶望的となった。
そしてしばらくの孤児院暮らしの後、オーストラリアのカップルと養子縁組を結び、遠く海を離れたオーストラリア・タスマニアで暮らすことになったのだ。
これまでの生活から一変したオーストラリアでの暮らしでサルーは里親に愛され、ハイレベルの教育を受けて大学で経営学の学位を取得し、一族が運営するエンジニアリング会社に就職する。
ようやく自分でお金を稼げるようになったということもあるのだろうか、これまで片時も忘れることなく胸のうちに秘めていた故郷の光景と母親の面影への募る思いが急激に膨らんできたのだ。
「育った田舎町の風景と、毎日歩いていた路地と家族全員の顔の記憶は私の宝物です」(サルー・ブライアリー氏)
そしてサルーはある日、自分が生まれ育った田舎町を実際に特定してみようと思い立つ。そこで大きな役割を果たしたのはグーグルアースである。
■グーグルアースの航空写真をチェックする日々が3年続く
サルーはあの“運命の日”のことをあらためて検証した。あの1日の行動を詳細に振り返り、コルカタに到着するまで列車に乗っていた時間を14時間と仮定した。そして列車の速度が平均時速80km(時速50マイル)とすると、地図上にコルカタを中心に約1600km(1000マイル)の円が描かれることになり、鉄道路線図と照らし合わせれば候補地が浮き彫りになってくる。そしてグーグルアースを使って、候補地を消去法でしらみつぶしに探す生活がはじまったのだ。
ある程度の候補エリアが特定されたとはいえ、わずかな記憶を手掛かりに広いインドから生まれ故郷を探すのは困難を極めた。仕事が終わってすぐにパソコンに向かって午後5時から午前2時までグーグルアースの航空写真(衛星写真)をチェックする日々が続いた。そして探索活動3年目のある日、カンドワの町の航空写真になんとなく見覚えがあることに気づいたのだ。
4歳当時まだ読み書きがおぼつかなかったサルーにとって、その地名はまったく心当たりはなかったが、線路の近くに噴水があるのが写真からもわかり、そこでよく遊んだ記憶がよみがえってきた。そしてこの地区のFacebookユーザーのグループに連絡を取り、いろいろと地域情報を入手するうちにここが“ふるさと”であるという確信がますます深まってきた。
そして30歳になった2012年にサルーは決心を固めてオーストラリアからはるばるインド・カンドワの実家へ25年ぶりに“帰宅”する。4歳の頃の実家には誰も住んでいなかったのだが、近くに引っ越していた家族と実の母親のファティマさんに四半世紀ぶりの再会を果たしたのだ。
「(実の母親は)4歳の頃に見ていた母にくらべてびっくりするくらい背が低かった。だけど母と一緒に歩いているうちに脳の中で感情と涙がまるで核融合のように化学反応を起したんだ」(サルー・ブライアリー氏)
グーグルアースがあればこそ実現した“ルーツ”をめぐる旅といえるのかもしれない。こうして25年間を費やした長過ぎる“帰り道”がようやく幕を閉じたのである。
(文=仲田しんじ)
参考:「Daily Mail」、「Wikipedia」、ほか
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