人間の肉体をたやすく両断する刀「人間無骨」― 誇るべき日本のロストテクノロジーと織田信長の家臣の逸話
人間無骨(にんげんむこつ)。名前からして恐ろしげなこの武器は、戦国時代に活躍した武将「森長可(もり・ながよし)」が愛用したという業物の十文字槍(穂先、先端が十字になっている槍)です。
この物騒な名前は、一品物の刀や槍に対して、それにまつわる逸話、刻まれた銘や彫刻、見た目などから付けられる「号(ごう)」であり、人間無骨の場合はまず、穂先の首部分の表に「人間」、裏に「無骨」と彫られているためです。
それだけではありません。各種文献によると、人間無骨は「まるで骨などないかのように、人間の肉体をたやすく両断する」ほどの鋭い斬れ味、突き味を持っており、そこから名付けられたとのこと。人間無骨と彫られ、同じ号が付けられた背景には、このような恐ろしい意味があるのです。
■織田信長家臣一番の暴れ者「森長可」と人間無骨
人間無骨の持ち主であった森長可は、初陣から27歳という若さで討ち死にするまでの間、この槍をもって数々の武勲を打ち立てました。特に17歳の時には人間無骨を振るい、なんと27もの首級を挙げたという逸話が残されています。
森長可は、一部隊を率いる武将という立場になっても戦場の最前線に立つ勇猛さ、勝利のためなら手段を選ばない苛烈さ、ほかにも非常に怒りっぽい乱暴者であったことから「鬼武蔵」と称され、敵味方問わず非常に恐れられていました。
主君の織田信長にも引けを取らない、森長可の壮絶な逸話はいくつもあります。ただし大河ドラマなど数々の歴史モノ作品に、森長可といういち武将として登場しているにもかかわらず、そのほとんどを映像化できない、という点から、色々と察せられるものがあるかと思います。
人間無骨の逸話もまた、映像化は非常に難しいと思われるものです。(おそらく森長可が)人間無骨の穂先に敵将の首を刺して掲げた後、槍の石突(いしづき。穂先の反対側、柄の根元部分)を地面に突き立てたところ、その衝撃によって首が十文字の穂先を貫通し、石突の部分までスルリと落ちたといいます。これが事実だとすれば、頑丈な頭蓋骨さえたやすく切り裂くという、恐るべき鋭さの証左といえるでしょう。
森長可の死後、人間無骨は森家に代々伝えられ、現在では旧三日月藩主森家の個人蔵になっているとも、行方知れずであるともいわれています。
ただし、戦国時代前後には大切なものを同時に2個作り、それぞれ「正」「副」と称する習慣がありました。このことから人間無骨は古くから写しが作られており、「副」の人間無骨は、かつて森家が統治していた兵庫県の「赤穂大石神社」に収蔵されています。
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