“クライマックス感”がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」

■北大路「世界の仕組みを知ってしまった」

クライマックス感がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」の画像4左・千葉雅也 右・北大路翼

――まさにギャンブラーですね。近い未来、50代はどうしていたいですか?

北大路 俳句界は年功序列なところがまだ残っているから、じっとしておけばそれなりの立場になれるでしょう。でもそれにはまったく興味ない。最後は脳ミソだけになるまで攻め続けたい。でも、どんなに自堕落に生きても、死ぬのはイヤだね。死んだら損しちゃう。

千葉 「死んだら損」っていう生きることへの素朴な肯定はいいね。僕は一定のサイクルで生活を続けることも大事だと思っているから、ギャンブルでお金をすりたくはない。50代ね……特別なことをやるよりは、どこかしらで普通に生活していればいいなと思う。

――次はいよいよオカルトについて聞いてもいいですか?

北大路 ギャンブルする人間はオカルトが大好きですからね。僕は一時期ユング派の夢診断を受けてギャンブルに活用していたし、「タカモト式」という馬券の買い方も実践しましたよ。

千葉 それは自分の夢からヒントを得て馬券を買ったりするとか?

北大路 夢というかサイン馬券の一種ですね。例えばスポーツ新聞の一面で「ジャイアンツが13連敗した」って書いてあったら、その「13」という数字がなにかのサインを持っている…と考えて買う方法です。でもそれを続けていると、日々数字に追われてしまう上に、一度数字を気にすると買わないと気持ち悪くなっちゃう。だって、もしもその数字が当たったらすごいショックじゃない。それで買っちゃうんだけど、全然当たらないよ。

――それは神経症的な面もありますね。ほかに霊的な体験とかはないんですか?

北大路 先日NHKから取材を受けたときは、僕は子どものころ「世界の仕組みを全部知って、それを言ってはいけないと抑え込まれてきた」という話をずっとしていたんです。

千葉 中2病設定っぽいけど、それは重要な話ですね。

北大路 もう一度、あの万能感を取り戻したいというのがありますね。(※2017年1月31日にNHK教育テレビジョン(Eテレ)の福祉情報番組「ハートネットTV」で放送)

――そのNHKの番組を見てみますね。

北大路 全部カットされてますよ(笑)。

千葉 カットされた内容を教えてよ(笑)。

北大路 子どものころ死ぬのがイヤで、死について考えすぎてたら、ある日ふっと「死んだらこうなるよ」ってメッセージが頭の中にきたの。“人生と死の答え”をもらったんだよ。

――それを教えてください。

北大路 それは言えないよ。2万円くれたらしゃべってもいいけど(笑)。


■千葉雅也が考える「オカルト」とは?

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――千葉さんは、オカルトや占いについてどう考えていらっしゃいますか?

千葉 ひと言で説明するのは難しいので、長くなるよ。

 まず、占いとかジンクスって「●●が起きたのは▲▲があったから」という「意味」を求めるでしょ? その意味を作り出すには“枠組み”が必要なんだよね。枠組み自体に意味はないのだけど、情報がバラバラにある状態では意味を作ることができないから、有限な枠を設けて、フレームの中におさめる作業をする。俳句の5・7・5も同じ。5・7・5でも、8・8・8でもいい、人間ってあらゆる場面で意味のない形式(枠組み)と付き合っていると思うけど、それって占いやジンクス、そして宗教を支持することと近いんだよね。

北大路 枠組みの根拠に対する追求はナンセンスなの?

千葉 それをやり始めたら切りがない。真剣に考えると狂気に近づいていくよ。結局世界の起源とかの話になっちゃう。

 現代哲学だと世界の起源の考え方にはふたつある。ひとつは、はっきりしたスタート地点を考えないもの。これは、ずっとプロセスが続いていて、始まりを考えないということです。もうひとつは、ゼロから生まれたという立場。僕が翻訳したメイヤスーという哲学者は「この世界のシステムは、まったくの無からなんの根拠も理由もなく突然発生した」という議論を立てた。これは人間に無根拠ということを考えさせる思考実験でもあった。僕自身は「人間は無根拠を直に考えることに耐えられないから、根拠がありそうでなさそうな『形式』を使って生きることにしている」という見方を取っていますけどね。人が占いやジンクスに頼るのを、僕はそのようにメタに観察しているんです。もちろん、自分自身も占いを頼ることはありますよ。例えば正月におみくじを引いてみるとかね。

北大路 人が何かを信じる心って、全部枠組みありきですものね。

千葉 パワースポットも同じように解説できる。パワースポットは一定の限界内、魔法陣みたいなものでしょ。本当にパワーがそこにあるのではなく、「ある有限性=囲い」があるから、パワーが集中するように思うだけ。人間は囲われたものにパワーを見るんですよ。そして“境界線”は、人間がどう無根拠に向き合うかという問題と密接に結びついているんです。

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