“クライマックス感”がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」

クライマックス感がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」の画像1画像は、歌舞伎町の酒場「砂の城」の入り口

【俳人・北大路翼×哲学者・千葉雅也(対談)】

 蒸し暑い夜、知的で詩的な対談が歌舞伎町の雑居ビルにある「砂の城」の一室で行われた。そこにいた男のひとりは、欲望と暴力の街・新宿歌舞伎町で句作に没頭する俳人・北大路翼。天才芸術家・会田誠から譲り受けた酒場「砂の城」を拠点に俳句一家「屍派」を束ね、NHKで報じられるなど現在注目の人物。今年5月には第二句集『時の瘡蓋』を上梓し、日々、精力的にTwitterにて俳句をつぶやき続けている。対するは、千葉雅也東大・京大で今1番読まれている本として大ベストセラーとなった『勉強の哲学 来るべきバカのために』の著者であり、フランス現代思想・哲学を専門とし、ギャル男ファッションからセクシャリティまで幅広く語る哲学者である。今夜、39歳同学年のふたりが俳句、孤独、哲学、生と性を語り尽くすシリーズ2回目。この対談は、きっと読者の心のどこかを少し変える!【第1回はコチラ】【第2回はコチラ

クライマックス感がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」の画像2時の瘡蓋』(ふらんす堂)、『勉強の哲学 来たるべきバカのために』(文藝春秋)

永遠のたとへば種無しスイカかな(『時の瘡蓋』より)

 

■第3回テーマ「人生とオカルトとセックスとギャンブル」

クライマックス感がなくなった時代の恐怖や不思議とは? 哲学者・千葉雅也×俳人・北大路翼が語る「オカルトとセックスとギャンブル」の画像3左・千葉雅也/右・北大路翼(歌舞伎町酒場・砂の城にて)

――唐突な質問ですが、人間はなぜ勉強しなければならないのでしょう? 

千葉 たとえばですが、スポーツの美しさってどこにあると思います? 僕は、ひとつの競技にまるで全リビドーが集中しているみたいなところにあると思うんだよね。「これしかない」とやっている人には壮絶な美しさがある。セックスもそう。「これしかない」っていう状態の交わりはすごい快感だと思うし、恋愛だって、他の可能性を考えない恋愛の方が凄みがあるでしょう。ただし、それは不幸と幸福が一致している状態だともいえる。「これしかない」状態だと、例えばそれが、DV(ドメスティック・バイオレンス)でも逃げられないし、愛だと思ってしまいますからね。だから、集中状態しかなくなってしまったら、天国かつ地獄の人生になってしまう。人間が人間らしく生きるには、他の可能性も考えないといけなくて、それを助けるのが「勉強」だと思いますね。

北大路 勉強ではないけれど、僕にとって人生は「たら、れば」の世界で、まさにギャンブルの様だと思っていますね。ちなみに、ギャンブルの面白さって「後悔すること」なんですよ。負けて悔しがってるときが一番楽しい。千葉さん、博打はしますか?

千葉 それが、面白いぐらい興味がないんですよ。ぜんぜん意味がわからない(笑)。お金を増やす方法は他にももっとあるのに、ギャンブルするなんて全く合理的じゃないから。

北大路 (笑)。でも、やってる方は「ギャンブルは楽して儲かる方法」だと信じていて、まさに合理的な儲け方だと思ってるんです。まあ、そもそも僕はお金をあんまり大事なものだと思ってないからギャンブルしているのだろうけどね。

千葉 そう言うと僕がお金に執着しているみたいじゃないですか(笑)。

北大路 いやいや、そういう意味じゃないですよ。お金って諸悪の根源みたいに言われるじゃないですか。

千葉 だからそれを賭けて、浄化するのかな。でも美味しいものとか食べたいし、僕はギャンブルはしないでお金を楽しみに使うな。

北大路 美味しいものって何? 味覚は割と気分に左右されるじゃない。普通に10000円持ってる時の1000円の定食と、ギャンブルで外れた続けたときの500円の牛丼なら、500円の牛丼の方がおいしく感じる。そのものの値段より自由になる金額がいくらあるかが大事。ギャンブルは実際の額面と自由になる額面がほぼ等価なところが好きなのかもしれない。千葉さんは100万円を一晩で使うとしたらどうする? 使わないとなくなっちゃうと考えて。

千葉 うーん。ところで、美味しいものって、僕はそれなりに客観的に存在すると思ってるんですよね。気分だけに左右されるものじゃなく、良いものは良い。で、一晩で100万ってことだけど、人間にとってほぼこれ以上はないという快楽がいくらくらいで打ち止めになって、それ以上は単に無駄遣いってことになるのか、と考えちゃうな。で、僕は無駄にお金を使うこと自体には快楽を感じない

北大路 僕なら飲んで、女呼んで騒いで終わりだろうな。美味しいお酒が飲めそうだね。僕の知り合いで、すごく愛していたダンナが亡くなって、その保険金でヘリコプターを借りてお金をばら撒いたって話があるよ。金って実はそれくらいのものだと思っているから、僕は将来のこともあんまり考えたことがないんだよね。「貯金がなくて困る」とかも考えない。将来の危機に対する創造力が貧困なんだろうね。「なんとかなる」って思って帰りの電車賃まで賭けちゃう。そして負ける。なんともならないですよ。歩いて帰るしかない。

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