映画『MOTHER FUCKER』大石規湖×谷ぐち順 第2回

何かをあきらめるのを、子どものせいにしてないか ― 家族全員がパンクロッカーの日常を追ったドキュメンタリー映画『MOTHER FUCKER』がヤバイ

■映画の次は、家を作りたい

――いや、でも谷ぐちさんは「共生社会の実現」を訴えて、しかもそれは別に難しい話ではなく、ただ「みんでワイワイやる」っていう。それは大いに共感できる部分ではないかと。

谷ぐち 昔から基本はそれなんですけどね。でも、最近ちょっと変わってきてて。例えば自分の周りでバンドやってる人は、俺が「障がいを持った人が地域で生活できるようにしたい」って言うと、当たり前のように賛同してくれるんですよ。要は、同じような音楽が好きっていうだけで、価値観を共有できるんだなって思ったんですよね。だったら、それを使って徐々に輪を広げていけないかなと。

大石 より多くの人を巻き込む方向に。

――あと、その「みんなでワイワイ」を体現してるのが、レスザンという共同体なのかなって。

谷ぐち そうだといいですね。レスザンって、はみ出し者が集まるような場所じゃないですか。変な音楽を異常に聴き込んでて、友達もいなくて、バンドをやってみてもなんかおかしくて、どこにも属せないような人たちが、自由でいられる居場所みたいな。俺もそういう人たちと、そういう人たちが好きな音楽が好きだし、それをもうちょっと広げれば、誰も孤立することなく、楽しく生活できるのが当たり前の社会につながるんじゃないかなって。今回、映画は完成したでしょ。だから次は、映画の中でも言ってた「レスザンハウス」を作ろうと思ってて。今まで自分が音楽や仕事で培ってきたものを、最大限に生かして何かできないか。その答えが、家だったんですよね。楽しい居場所が、もっと近所にあったらいいんじゃないかな。

大石 今思ったんですけど、レスザンには“ご近所感”があるかもしれないです。YUKARIさんも「ウチでごはん食べてく?」とか、体調悪いときに「大丈夫?」って電話くれたりするし。そういうのって、最近あんまりなくないですか?

――ないですね。僕の場合、僕の体調が悪いことを自分以外の誰も知らないっていう……。

大石 私もそんな感じだったんですけど、YUKARIさんも谷さんも2人の周りの人たちも、みんなご近所さんみたいな気安さで接してくれるんですよね。近所といっても、別に家が近いわけじゃなくて、地方にいる人も“遠くのご近所さん”みたいな感じ。そういう人がたくさんいて、たまにみんなで集まってやるお祭りが「METEO NIGHT」(Less Than TV主催のライブイベント)なんですよ。

谷ぐち うんうん。


■レスザンはまだまだ続いていく

――今、「ご近所感」とおっしゃいましたけど、レスザンというレーベルを、もう少し具体的に言語化できますか?

大石 できません(笑)。谷さんも、谷さんの周りの人たちも、例えば「レスザンはこうあるべき」とか「パンクはこうあるべき」とか言う人は1人もいないんです。ただ谷さんが動いてたりするのを感じて、各々が考えて動いてるし、別に話し合いもしてないし。谷さんも、「代表」っていう肩書きはあるけど、いつも「俺は代表じゃない」って言ってるし。

谷ぐち 代表じゃないですよ、ほんとに。俺もレスザンを言葉で説明できないし。ただね、「パンクはこうあるべき」みたいな話に絡めて言うと、昔は俺も、U.G MANとかやってて調子に乗ってた時期があるんですよ。「俺たちはすごいセンスのいい、最先端の、誰も追いつけない音楽をやってるんだ」みたいな。今でもそうありたいとは思ってるんですけどね、音楽に関しては。だけど当時は、その一方で感覚的に優れたやつしか認めないようなところがあったんですよ。

――それは意外ですね。

谷ぐち でも、90年代のいつだったか、「消毒GIG」(GAUZEが主催する自主企画)に出たあとに、たしかThe GAIAの企画で、いわゆる「ジャップコア」のバンドが出るイベントに誘われたんですよ。そのころ俺はそういうバンドとは少し距離を置いてたんだけど、いざそのイベントに出てみたら、もう単純にパンクが好きで、それ以外は何もいらないってやつらが集まってる。客なんかぜんぜんいないんだけど、The GAIAの人がお弁当作ってきてみんなで楽しそうに食べてたりしてる。そこに、ものすごいピュアなパンクの美しさを見たんですよね。ただパンクが好きならそれでいい。センスもクソも関係ないんだって。

大石 純粋であることが大事だと?

谷ぐち うん。なんか、言葉にすると恥ずかしいんだけど。だから映画の「楽しい、ことだけ!! ぶちかませ!!」っていうキャッチコピーのまんまですよね。他人がどういう評価をしようが関係なくて、全力でそれだけを追求する。余計なことは考えない

――先ごろレスザンから2ndアルバムをリリースしたVOGOSなんかは、まさにそんな感じですよね。ああいうピュアなファストコアをやってる若いバンドって、珍しい気がして。

大石 あんなキャラ立ちした4人が集まってるのも奇跡的ですよね。

谷ぐち  VOGOSを見たときに「あ、ハードコアはまだ大丈夫だ」って思ったんです。ほんとですよ(笑)。もちろん、今なお現役で頑張ってるベテランもいっぱいいるけど、それだって限界があるじゃないですか。

大石 レスザン周りの若い人たち……といっても30代の人も結構いますけど、例えば名古屋のMILKとか兵庫のFAAFAAZとか、この映画にも出てる地方のバンドなんかを見ると「まだ続いていくんだ」っていう嬉しさが込み上げてきます。

 

VOGOS。YouTubeより


■『MOTHER FUCKER』
●公式ホームページ http://mf-p.net/
9/8(金)まで渋谷HUMAXシネマにて
9/9(土)~9/15(金)|シネマート心斎橋
9/16(土)~9/22(金)|シネマート新宿
9/23(土)~9/29(金)|名古屋シネマテーク
9/30(土)~10/6(金)|広島・横川シネマ
10/14(土)~10/20(金)|横浜シネマ・ジャック&ベティ
10/21(土)~10/27(金)|仙台・桜井薬局セントラルホール
10/28(土)~11/3(金)|京都みなみ会館
以降 神戸・元町映画館 他 全国順次Fuckin’公開中!

■大石規湖
フリーランスとして、SPACE SHOWER TV や VICE japan、MTV などの音楽番組に携わる。また、トクマルシューゴ、 DEERHOOF、BiS階段、奇妙礼太郎など国内外問わず数多くのアーティストのライブ DVD やミュージックビデオを制作し、女性でありながら男勝りのカメラワークで音楽に関わる作品を作り続けている。映画『kocorono』(2010年・川口潤監督)では監督補助を担当。また谷ぐち順の初MVの監督も務めている。

■谷ぐち順
Less Than TVの代表ではない何か。介助者。一応、フォークシンガー。

【インタビュー全3回まとめはコチラ】

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文・取材=須藤輝

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