【反出生主義】人類は段階的に絶滅していくべき、でも自殺は推奨できない?…ベネターの哲学の魅力を翻訳者である小島和男准教授が解説!

【反出生主義】人類は段階的に絶滅していくべき、でも自殺は推奨できない?…ベネターの哲学の魅力を翻訳者である小島和男准教授が解説!の画像3撮影=編集部

――ベネターの主張は海外や日本ではどのくらい受け入れられているんでしょうか?

小島 海外では、研究者ではないアンチナタリスト(反出生主義者)には結構受け入れられていると思います。日本だとあんまりないですね。ベネターも言ってますけど、「段階的絶滅に向かおう」とか、「子供を作るな」とか、そういう主張には実質的な効力は何もないと思うんですよ。もちろん、活動家の方からしたら、良いことだからやるべきなんだ、って言われるかもしれないんですけど、それが本当に良いのか、所詮不完全な人間の唱えている説ですから確証はありませんし。この主張に関して確証なくそれに向かえるほどの条件はおそらく整うことはないでしょう。それも絶対ではないですけど。

 だから、これが哲学の中ではないところで何か社会的な効力を発揮するかって言うと、僕はまずしないと思います。もともとそういう考えを持っていた人を勇気づけるだけじゃないかなと。

 ただ、あとがきにも書いたのですが、1つ大事だと思うのは、親子関係に関する考え方ですね。一般的には「子は親の面倒を見ないといけない」っていう意識があるじゃないですか。子は親を大事にするべきだ、っていう。

 でも、親は子供の許可を得ずに子供を生んでいるわけですよね。ドラマなんかで「生んでくれって頼んだわけじゃない」って子供が親に暴言を吐いて、親が「そんなこと言っちゃいけない」って泣いたりする場面があるじゃないですか。僕はそれがよく分からないんですよね。ベネターを読む前からそうです。生んでもらって良かったかどうかは別にして、事実として生んでくれって頼んだ覚えはないわけです。そのときには存在していないわけですから。

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 親が子供にかなり高い程度の責任を持つっていうのは大事だと思うんですよ。勝手に生まれさせちゃったわけだから。でも、子供が親の面倒を見るっていうことに関しては、その親の子供の問題じゃなくて社会全体で引き受ける問題だろうと思うんです。そういうふうにシフトしていった方が、優しいというか親切な社会になっていくような気がします。

 もちろん、子は親にひどくあたっていいと言っているわけではありません。親も尊重すべき他者ですし、そもそも復讐というものはそう簡単には正当化できないでしょうから。

 

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◆小島和男
2004年学習院大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程単位取得退学。同大学文学部哲学科助手を経て、2007年同大学哲学博士取得。学習院大学文学部哲学科准教授。著書『プラトンの描いたソクラテス』(晃洋書房)、共著『面白いほどよくわかるギリシャ哲学』(日本文芸社)など。古代ギリシア哲学、今は特にローマ帝政期にプラトンを研究していたいわゆる中期プラトン主義者のアプレイウスのプラトン解釈を研究している。同時に、ハイデッガーのプラトン解釈にも目を向け「プラトンを読むことが哲学をすることにどうつながるのか」という問いから、哲学の方法論やメタ倫理学などの分野にも関心を持ち、ベネターの翻訳も手掛けた。

◆ラリー遠田(らりーとおだ)
作家・ライター/お笑い評論家
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業(専攻は哲学)。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、 『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)など著書多数。


【『生まれてこないほうが良かった』のサポートページ】
https://sites.google.com/site/umakona2017/
こちらに最新の正誤表を載せ、また関連のイベントの開催をリンクとともにお知らせしております。


【イベント情報】

●『生まれてこない方がよかった』出版記念トークイベント
2018年3月10日(土)15:00-17:00
http://www.gaccoh.jp/?page_id=9764
京都出町柳のGACCOHにて戸谷洋志先生と対談形式のイベントを開催致します。上記Webページよりお申し込み下さい。

●学習院さくらアカデミー(学習院大学内の生涯学習センター)
2018年3月25日(日)13:00~14:30
訳者が語る特別講座 何故、生まれてこないほうが良かったのか?~90分でわかるベネター『生まれてこないほうが良かった』
http://g-sakura-academy.jp/course/detail/2018/A/045/
上記Webページよりお申し込み下さい。

●学習院大学哲学サークルPhilo LABOにて、ベネターに関する哲学対話(予定)
2018年4月7日(土)17:00~19:00
2018年4月14日(土)16:30~19:00
下記TwitterまたはFacebookにて詳細を掲載致します。
https://twitter.com/philo_labo
https://www.facebook.com/philolabo/

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●学習院大学文学会・学習院大学文学部哲学科共催シンポジウム
D・ベネター『生まれてこないほうが良かった』をめぐって

2018年4月21日(土)14:00~17:50 学習院大学西5号館201教室 入場無料・申込不要

登壇者
森岡正博(早稲田大学 人間科学部 教授)
佐藤岳詩(熊本大学大学院 人文科学研究部 准教授)
吉沢文武(工学院大学 教育推進機構 特任助教)
戸谷洋志(大阪大学大学院 医学系研究科 特任研究員)
小島和男(学習院大学 文学部 准教授)司会者・責任者

「生命の哲学」の提唱者である森岡先生、『メタ倫理学入門』の著者佐藤先生、人生の意味から宇宙倫理、動物倫理まで幅広く研究されている吉沢先生、ハンス・ヨナス研究の戸谷先生をお招きしてのシンポジウムです。賛否の分かれるベネターのアンチナタリズム(反出生主義)に関して先生方のお話を伺います。来場者からの質問も質問用紙にて受け付けお答え致します。皆さま、奮ってご参加下さい。

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文=ラリー遠田

作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。

Twitter:@owawriter 書籍情報:https://owa-writer.com/

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