時計が止まったとき ― “祓えんほど強か念”が円満夫婦を恐怖に陥れる!【実話怪談】
■引っ越しの餞別にもらった「時計」
このとき静江さんは第二子を妊娠していて、かなりお腹が大きくなっていたが、大阪市内で挙げた結婚式には3歳になる長男を連れて出席し、彼らの出立直前にも、子供の手を引き、餞別を届けに来てくれたという。
「これ引っ越し祝い。昭仁くん、田舎に帰ってん頑張りなっせ」
静江さんから贈られたのは壁掛け時計で、円い文字盤の12・3・6・9のアワーマークに小さなピエロの飾りが付いていた。
「わあ、むぞらしか(可愛い)! ありがとう!」
「うちもたまには里帰りするけん、また連絡するばい」
「静江ちゃんも子育て頑張って。うちらもそのうち遊びにくるけんね!」
■止まった時計
新婚の竹田さんご夫妻は、大阪のそれぞれのアパートを引き払って、昭仁さんの実家に引っ越した。1991年の春のことだったという。
その頃、九州の昭仁さんの家族は、同じ敷地の中に家を2棟建てて暮らしていた。1棟には昭仁さんの両親が住み、もう1棟は寡婦となった父方の祖母の住居と母の美容院を兼ねていた。
昔は後者の方が母屋だったから部屋数が多く、2階の部屋が余っていた。昭仁さんと佐登子さんは、まずはそこに住まわせてもらって、事業の立ち上げと営業に専念することにしたのだ。
ピエロの壁掛け時計を2階の居間兼食堂に飾ると、静江さんに見守られているような気がして、勇気づけられた。
毎朝、美容師をしている昭仁さんの母が1階の美容院に出勤してきて、母のお客さんたちがひっきりなしに訪れる生活は、にぎやかで忙しなく、あっという間に1年が過ぎた。
また春が巡ってきた頃のある朝、ピエロの壁掛け時計が止まっていることに佐登子さんが気づいた。
夜、寝室に引きあげる前に見たときは動いていたのに、電池を入れ替えても動かず、昭仁さんが直そうとして悪戦苦闘していると、母が来たのだが、いつもと違って美容院を開けずに、2階に上がってきた。
「首がたいぎゃ痛かとばい。こりゃ寝違えやなか、霊んしわざやて思うばってん、あたたちは平気と? 《先生》んところへ行こうて思うけん、店ば貼り紙して閉めといて」
母の美容院の常連客の中に霊能者がいて、《先生》というのはその人のことだ。母自身も少し霊感があり、《先生》は同じ町内に住む同年輩の女性でもあったことから、前々から2人に親交があることは昭仁さんも知っていたが、母が仕事を休んでまで《先生》に霊視してもらおうとしたのは初めてだった。
よほどのことだと思っていたら、《先生》を訪れてから3時間ほどして帰宅した母が言うことには――。
「あたが入ってきた途端、うちには祓えんほど強か念が近づいてきたけん、来んで!来んで!て思うた。
あたがつれてきたモノは、あたん息子しゃんと同じ年頃ん女性ばい。
あたん首が痛むんな、こん方が首ん骨ば折っとるせいばい。
こん女性は、あたん息子しゃんご夫婦ばたよってきたばってん、息子しゃんたちには霊感がなかったけん、あたん方に飛んできたんごたる。そん方が誰かわからんうちは、うちにはどうすることもでけんわ」
――と、霊能者の《先生》に告げられたそうだ。
母「ちゅうわけやけん、昭仁、首ん骨ば折った同級生に心当たりばある?」
昭仁「そぎゃん話は聞いたこともなか。病院に行った方がよかやなか?」
その時点では、昭仁さんも佐登子さんも、静江さんのことは思い浮かばなかったそうだ。しかし、その夜、昭仁さんに大阪の友人からこんな電話がかかってきたのだった。
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2024.10.02 20:00心霊時計が止まったとき ― “祓えんほど強か念”が円満夫婦を恐怖に陥れる!【実話怪談】のページです。怪談、実話怪談、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで