“100発100中の予知能力者”が広島に存在、おでこに「画面が開く」女とは!? 川奈まり子の情ノ奇譚『予知』
鶴田さんはインタビュー中に、この「画面が開く」という表現を度々使った。予知するときは、額の内側に映画のスクリーンが現れて、そこに映写されたフルカラーの画面を眺めるように感じるのだそうだ。
静止画の場合もあるが、多くは映画さながらの動画が見えるのだという。
実家で同居していた彼女の祖母は10年くらい前に亡くなったが、そのときには、死に先立つ1週間ほど前に、家族と親戚一同がみんなで祖母の臨終に立ち会う映像を見た。
実際に祖母が息を引き取る際には、その光景が鶴田さんの目の前で〝再演〟された。
年賀状の柄があらかじめ見えたり、恋人がデートに来られないと電話で謝る映像が見えた後に、彼から電話がかかってきてデートを直前でキャンセルされたりしたこともあるという。
「数年前から交際している男性がいるんですけど、彼には何もかも打ち明けて、理解してもらっています。彼とはシンクロしやすいみたい。離れていても、彼が何をしているかわかるときがあります。つい先日も、彼が険しい山道を歩いているところが見えたから『ずいぶん足場の悪い所にいるね。怪我をしないように気をつけて』とメッセージを送ったら、『おまえ凄いなぁ』と驚かれました」
鶴田さんは、その彼氏にも関わる件で、怖い予知をしてしまったことがある。交際しはじめた頃のことで、それが、予知能力について彼に告白するきっかけにもなった。
5、6年前の春、鶴田さんの交際相手の親友が失踪した。原因がわからないまま行方不明になり、家族が警察に捜索願を出したと聞いたが、健康な成人男性の失踪は警察では一般家出人とされ、積極的に捜査されることはない。
しかし、親友の一大事であり、鶴田さんの彼氏は酷く気を揉み、寝ても覚めても親友の安否を案じるようすだった。
鶴田さんは、付き合いだして日が浅かったせいもあり、行方がわからなくなった人の写真を見せてもらったこともなかった。彼の話から、自分たちと同じ広島に住んでいた同世代の男性だということはわかったが、知っているのはそれだけだった。
ところが、心配のあまり気がおかしくなりそうな彼氏をハラハラしながら見守っていたところ、唐突に自分の額に画面が開いて映像が始まった。
――見知らぬ男性が独りで砂浜に膝を抱えて座っている。彼の視線の先には遠浅の海が広がり、水平線が果てしなく左右に伸びている。のっぺりとした大凪の海原。自分が見慣れた瀬戸内海とは海の色が違う。
鶴田さんは、海を眺めている男性が失踪中の彼の親友だと直感した。また、海のようすから察して、その人は、ここ広島ではなく、どこか遠いところにいるのではないかと思われたが、彼氏に言うのは躊躇われた。
変な女だと思われたくなかったのだ。
しかし、その後、問題の男性のスマホのGPSを警察に調べてもらうことが出来て、最後に居た場所が静岡県だったことがわかったと聞くと、あの海はきっと静岡県の海に違いないと思い、黙っているのも苦しくなった。
そこで、鶴田さんはおずおずと、「海の方を探してみたら見つかるかもしれないよ」と彼氏に告げた。
しかし、その直後に、彼女は第二の予知を見てしまった。
――水中に沈む男性の顔。閉ざされた瞼。苦悶を刻みつけて静止した表情。漂白されたかのように色彩を失い、輪郭がふやけている。前髪が若布のように額にまつわりつつ揺れる。
――波打ち際に仰向けに横たわる男性。動かない。死んでいる。これは遺体だ! 砂にまみれた手足。靴と靴下は波に揉まれて脱げてしまったのだろう。
予知した内容から、鶴田さんは、静岡県のどこかの海辺にその人の溺死体が打ち上げられるはずだと思ったが、果たして、やはりそのとおりになった。
2回目の予知の3日後、静岡県某市の海岸で潮干狩りをしていた親子が遺体を発見して警察に通報、その旨が鶴田さんの恋人にも知らされた。
遺体で見つかる前の日に入水自殺をしたとのことだった。
「つまり、私が死を予知した後に亡くなったんです。海辺で座っていた映像を見たときからは1週間以上絶っていました。予知してすぐに、その人は遠いところの海辺にいるはずだと彼に言っていたら、ひょっとすると死なせずに済んだかもしれない。
このことがあったので、彼には私の予知能力を知ってもらうことに決めました。幸い彼は理解してくれて……最近は私を心配しています。
こういう特別な力は何かを代償として得ているものだからと彼は言うんです。たとえば目が見えなくなるとか。
私は近視で、だんだん視力が落ちてきているので、そのうち見えなくなるんじゃないかと想像してしまって、そう言われると、私も怖くなってしまいます。でも、予知をやめる方法がわからないんです。原因がわかれば止めようもあるかもしれませんが、わからないし。
予知ができても、あまりいいことはありません。ときどき答え合わせをしながら生きているような気分になります。未来が見えても、虚しいですよ」
■川奈まり子
東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。
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2024.10.02 20:00心霊“100発100中の予知能力者”が広島に存在、おでこに「画面が開く」女とは!? 川奈まり子の情ノ奇譚『予知』のページです。予知、怪談、実話怪談、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで