■1億人のなかに自分だけ1人の『ポケモンGO』状態
ーークンブメーラのクライマックスはサドゥ達のパレードだと思うのですが、いかがでしたか?
名越 リオのカーニバルに行ったことがあって、それに近いと思いました。ただ、あそこまで激しい感じではなかったです。リオのカーニバルは快楽と暴力が一体化しているイメージがあったけれど、クンブメーラは揉め事が起きるような感じではなくて、祭りのなかに静けさがある。人がひしめき合いながらも、激しくぶつかりあうような感じではないんです。近田くんも言っていたけれど、会場を人体に、人を血中の細胞に例えると、ゆっくりと流れる血液の中で1億の細胞が蠢いているみたいなイメージ。決して速いスピードじゃないんですよ。
ーー意外と穏やかなんですね。
名越 人の数は半端ないんですけれどね。人が多過ぎて普通に歩いていては川まで行けない。メイン会場がどこだかわからないし、どこで何が行なわれているかもわからない。向こうで知り合った日本人旅行者に「メイン会場まで3、4時間かかるし着いた先も人の群れだ」と言われました。宿で知り合った人がたまたま位の高いヒンズー教徒とコネクションを持っていて、車で連れて行ってくれたんだけれど、彼と会えなければ辿り着けなかったかもしれません。
ーーサドゥの群れに入り込んで撮っている時に押しつぶされそうになったり、危険な目に遭うことはありませんでしたか?
名越 人間の圧にやられるような、襲いかかってくるような感じはあったし、「邪魔だ」って棒で殴られたりはしたけれど、危険なことはなかったですよ。それまで行った他の国と比べれば平和というか、恐怖を感じることはない。ナガサドゥは気性が荒くて暴力的だって言っている人はいたけれど、怖さは全然ないです。とにかく人が密集して押し寄せてきて、距離が数十センチしかないから、何を撮っていいかわからなくなる恐怖感はありましたけれど、狙った写真を撮れない状況はよかったです。
ーー撮影の際に留意したことはありますか?
名越 そのまま撮るとよくあるお祭りの報道写真になっちゃうから、そこをどう外して撮るかは考えました。どんな写真になるかわからなくても、自分なりに違った角度からしっかり見ていこうと思っていて。それと、考えずに、とにかくシャッターを切っていこうというのはありました。自分の意図や目的のようなものを全部捨てて、見たものをとにかく撮る。「目の前の食えるものは全部食ってやる」みたいな勢いで、頭で考えずに13日間シャッターを押そうっていう。