ーー近田さんの文章から感じるクンブメーラへの熱の入りようと比べて、名越さんの写真は、場の躍動感を感じさせながらもクールな印象を受けました。その温度差が不思議といい形で1冊になっているのが面白いと言いますか。
名越 近田くんと近い視点にはならないでおこうっていうのは常にあったんです。同じように入り込んで撮ったら自分の写真じゃなくなってしまうから、常に別の視点、角度から見ていかないと。でも、それを真っ直ぐにやり過ぎたかとも思います。
ーー真っ直ぐにやり過ぎたとは?
名越 同じテントサイトにいたヨーロッパ人の3人組のおばちゃんが、「早くサドゥを撮りたい」「ストレンジな奴らはどこにいるんだ?」みたいなことを言っていて、自分はそういう視点で撮りたくなかったし絶対にそうならないでいようと思っていたんです。でも、彼女達の視点で彼女達と一緒に動いて撮ったクンブメーラっていう角度もあったはず。外国人観光客のおばちゃんが一生懸命サドゥの写真を撮っている横から撮るとか、そういう角度も面白いじゃないですか。でも、意外と真っ直ぐ突っ込み過ぎちゃいました。
ーー名越さんはどんな視点、角度からクンブメーラを撮っていたのだと思いますか?
名越 どこから見ていたんでしょうね。とある被写体がいて、その人達とがっつり一緒に生活したりしながら見えてくるものを撮るのがいつものスタイルなんですよ。今回の『バガボンド』でいえば、サーカス団は自分のいつもの距離感に近い。けれど、クンブメーラの場合は全く違うから、野球で言うところの外野席でもないし内野席でもない。ベンチでもない。変な所から見ていた感じがします。
ーー変な所とは?
名越 言葉にするのは難しいけれど「ぽつんと1人」という感じ。先日、同時期にクンブメーラに行っていたコラムニストの辛酸なめ子さんと対談した時に、「1億人も集まっているのにスマホで会場で『ポケモンGO』を起ち上げたら自分以外誰もいなかった」っていう話を聞いて、本当、そんな感じだって腑に落ちました。目の前に1億人が同じ方向を見て同じものを目指して動いている中に、僕だけぽつんと1人。いい意味で気持ちが入り込めなかった。
ーー祭りの勢いとか現場のバイブレーションみたいなものは感じていたんですよね。
名越 感じてはいたけれど、そういうことは考えないようにして撮っていたから、近田くんは「撮れ! 撮れ!」って言ってくるのに、僕は「何を撮るの? わからんわ!」って喧嘩になることもあって。でも、そこで考えたら何も撮れなくなっちゃう。一瞬、あの『ポケモンGO』みたいにポコンと何も見えなくなることがあって、ふと気づくと周りは人混みで、距離も近いし考えている暇がないからとにかく撮らなきゃと思い、我に返って撮っているとまた急に荒野にいるように感じたり。
ーーその孤立感って何なんでしょうね?
名越 わからないです。本の最後にも書いているけど、インドって本当にわからない。混乱してくるし。(後半につづく)
■作家インフォ
名越啓介(なごし・けいすけ)
1977年、奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。19歳で単身渡米し、スクワッター(不法占拠者)と共同生活しながら撮影。その後、アジア各国を巡り『EXCUSE ME』で写真家デビュー。雑誌やカタログなどで活躍する一方、『SMOKEY MOUNTAIN』、『CHICANO』、『BLUE FIRE』などを発表。2018年に『Familia 保見団地』で写真の会賞を受賞。
http://www.commune-ltd.com/photo/nagoshi/
近田拓郎(ちかだ・たくろう)
1981年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業。2006年、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』に配属される。以降、グラビア班に籍を置いて活動。
■作品インフォ
「バガボンド クンブメーラ 聖者の疾走」
写真:名越啓介
文:近田拓郎
定価:2,700円+税
発行元:イースト・プレス
320ページ、写真点数299点。3万字超の原稿
■写真展インフォ
名越啓介写真展『MR.IND!A』
期間:2019年8月9日(土)~8月22日(木)
場所:IMA-ZINE 2F ギャラリー
住所:大阪府大阪市北区中津3-30-4
時間:12:00~21:00 ※日曜は18:00まで
Instagram:@imazine_osk
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