「あいちトリエンナーレ」騒動ですり替えられた問題の本質とは?表現の自由と戦う死体写真家・釣崎清隆の見解!

――死体写真家・釣崎清隆が寄稿!

 

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表現の不自由展・その後 | あいちトリエンナーレ2019HPより


 あいちトリエンナーレにおける企画展「表現の不自由展・その後」が開幕3日目で公開中止になった。

 まず私は「表現の不自由」という言葉自体に違和感を持つ。“不自由な表現”、つまり狭い洞窟の中に自らを閉じ込めるように表現の可能性を狭めた窮屈な表現、そんなイメージがどうしても思い浮かぶ。

 私自身、四半世紀前に死体写真を撮り始めて以来、次第に活動の場を狭められてきた芸術家のひとりとして、あいちトリエンナーレのキュレーターが「表現の不自由」を見据える視線の“不自由さ”に、嘆息を禁じ得ないわけだ。

 このまま芸術において表現の自由が政治や倫理の問題にとらわれ続ければ、いつまでたってもタブーを犯して極北を目指す表現は進化し得ないだろう。芸術表現で美醜を問うという基本的な出発点にいつまでたっても立てないであろう。昭和天皇の御真影を燃して踏みつけるような幼稚な表現から、いつまでたっても越境できやしないのである。

 この展示に関して私は、じかに作品と接していないだけにくどくど言うまい。端的に、救いようのないセンス。

■困難だった、日本での死体写真集制作

 まず表現の自由に対する問題意識の方向性に疑問がある。私個人にとって表現規制の本丸は、なんといっても性表現であり残酷表現である。

「表現の不自由展」が2015年に東京都練馬区のギャラリー古藤において支障なく開催されている時点で「表現の不自由」ではなく、一方でろくでなし子氏が2014年にわいせつ物頒布等の罪で逮捕された事件を挙

「あいちトリエンナーレ」騒動ですり替えられた問題の本質とは?表現の自由と戦う死体写真家・釣崎清隆の見解!の画像2げるまでもなく、性器表現は違法であり、問答無用で警察沙汰なのである。しかしながら芸術性があれば性器表現は認められるとされた2008年のメイプルソープ裁判最高裁判決の例もあり、もし、あいちトリエンナーレのような国家的芸術祭で我が国の基本的性表現の解放が高らかに宣言されていたとするなら、まだ意義深い展示になっていたかもしれない。

 残酷表現に関しては、私が昨年末に上梓した死体写真集『THE DEAD』の制作過程(※編集部注:写真を刷る印刷所や製本所がなかなか見つからなかったことなど。詳しくはこちら)における困難を鑑みるに、もはやこの先、我が国において豪華本による死体写真集の出版は無理ではないかという実感だ。

 いずれにしろ、4年前に民間で開催済みの「表現の不自由展」を、日本を代表する芸術祭に再び引っ張り出すという企画など、炎上目的の悪趣味というほかない。

 しかしそれでも主催者はいったん展示を決定したのなら中止すべきではなかった。圧力や脅迫に屈するなど、民間のギャラリーならいざ知らず、“日の丸”芸術祭においてあってはならないことだ。

 しかし主催者は生半可な覚悟しか持ちえなかった。やっていることの重大性に無自覚だった。救いようのないセンスをどこまでも露呈してしまった。

 この問題を憲法21条における表現の自由、検閲の禁止の議論に結び付ける向きがある。だが「芸術祭」であるからには、本源的に問われるべき美醜の問題を憲法問題にすり替えることはやめた方がいい

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