▪︎東京を撮り続けようと思う
ーー自身が育ち生活してきた東京を見つめ直そうと撮影を始めた矢先にコロナ禍が襲ったとのことでしたが、どうして地元の東京を写真で作品化してこなかったのですか?
初沢 テーマ性を見つけられなかったからでしょうか。自覚なく自分の身の回りを撮っていた学生時代を経て、写真家として自覚的に何かを撮るとなった時から、日本の戦後史において克服できていないポイントを、社会学的な視点やジャーナリスト的な視点で撮ってきました。そこにはテーマ性があったんです。
そして、いろいろ巡ってきたことで、東京という拠点を撮ろうという自覚的な意識が芽生えました。コロナ禍に突入したのであれば、この時期を撮ることが歴史をアーカイブするうえでも意味を持つ、写真家がやるべき仕事だという自覚のもとに半年撮りました。
それと、今はストレートなスナップ写真が写真表現の隅に追いやられている印象があるんです。外部の空間や他者の顔といった外のモチーフを借りて、極めて私的な撮り手の内面を表現する作品は多いですが、私性をぐっと引いたところで社会を撮ることに撮り組む人が減っている気がする。
それぞれ意図は違っても、荒木経惟さん、森山大道さん、渡辺克己さんのように、何十年もかけて東京を撮り続けてきた人はいます。でも、僕の世代ではあまり見かけない。そういう意味でも、東京を撮ることの意義を再確認した半年間でした。
ーー手応えはつかめましたか?
初沢 つかめました。どこでも自分が納得のいく写真が撮れることがわかったので、いつでもどこででも撮ればいいと確信が持てた。それと、時間が経った時に必ず、この街を伝える記録、資料として残っていくだろうということに自覚的になり始めました。
ーーこれからも東京を撮ることになりそうですね。
初沢 今回の写真集は、写真業界の人から見て「また初沢亜利はわかりやすいところに食いついてパッと撮ったな」と思われがちだとは思うけれど、これからも東京の写真を撮り続けて、何年か後に出すということになれば、少し見方が変わることになるのかなという気がしています。これからも何かあれば外に撮りに行くこともあると思うけれど、食事をするように自分の周囲を撮っていきたい。
いろんな所を回って、帰ってきて、ようやく腰を落ち着けて東京を撮り始めた。『東京、コロナ禍。』はその入口です。
▪︎作家プロフィール
初沢亜利(はつざわ・あり)
1973年フランス・パリ生まれ。上智大学文学部社会学科卒。第13期写真ワークショップ・コルプス修了。イイノ広尾スタジオを経て写真家として活動を始める。東川賞新人作家賞受賞、日本写真協会新人賞受賞、さがみはら賞新人奨励賞受賞。写真集に『Baghdad2003』(碧天舎)、『隣人。38度線の北』『隣人、それから。38度線の北』( 徳間書店)、『True Feelings』(三栄書房)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)。
▪︎写真集インフォ
初沢亜利写真集『東京、コロナ禍。』
発行元:柏書房
価格:1,800円+税
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b517597.html
▪︎写真展インフォ
初沢亜利写真展「東京、コロナ渦。」
期間:2020年7月20日~9月26日
会場:山﨑文庫 東京・赤坂のバー
住所:東京都港区赤坂6-13-6 キャスティール1階
日時:月曜日~土曜日 16:00~26:00
休廊日:日曜日
TEL:03-5544-9727
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