「個人の良心は社会を変えない」ハンナ・アーレントによるソローの市民的不服従批判とは? 令和のアクティビスト必読!

 良心とモラルに基づいて公然と法を破る行為は「市民的不服従」と呼ばれており、インド建国の父として有名なマハトマ・ガンジーの思想にも大きな影響を及ぼしたとされている。しかし著名な思想家によれば、発案者のオリジナルなアイディアが“誤解”されて伝わっているというのだ。いったいどういうことなのか。

■ソローの「市民的不服従」は誤解されて伝わった?

 アメリカの作家で思想家のヘンリー・デイヴィッド・ソロー(1817~1862)は1846年の夏、人頭税を支払うことを拒否した後、マサチューセッツ州コンコードの刑務所で一晩を過ごした。

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ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 画像は「Wikipedia」より

 後の1849年にソローは「市民的不服従の義務について(On the Duty of Civil Disobedience)」と題したエッセイでその時の反抗行為について語っている。エッセイでソローは大規模な不正、特に奴隷制と米墨戦争を続けた連邦政府に物的支援を提供することを望んでいなかったと説明した。

 エッセイのタイトルにもなっている「市民的不服従(Civil Disobedience)」の概念は、後にトルストイやガンジーからマーティン・ルーサー・キングに至るまで、世界の偉大な政治思想家の多くに刺激を与えるものになった。

 しかし、ソローの市民的不服従は誤解されて伝わったのだと指摘する声もある。

 政治思想家のハンナ・アーレント(1906~1975)は、1970年9月に「ニューヨーカー」誌に掲載されたエッセイで市民的不服従について言及し、ソローのそれは市民的不服従を行ったのではないと主張した。

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「Big Think」の記事より

 アーレントはソローの道徳哲学全体は、今日使われている意味での市民的不服従ではなく、集団主義的精神への嫌悪感に根差しているものであると指摘したのである。

 ソローのエッセイは、国家権威に対する強力な批評と、個人の良心に対する妥協のない擁護を提示している。著書『ウォールデン 森の生活』(原題:Walden、1854)で彼は、各人が社会的慣習ではなく、個々の中の“天才”に従うべきであると説き、我々は法律ではなく我々自身の道徳的信念に従うべきであると主張した。そして 市民は「一瞬たりとも良心を法律に委ねてはならない」と説いている。

 ソローにとってこの“処方箋”は法律が民主的な選挙と国民投票によって作成されたものであっても有効である。実際、ソローにとって民主的な政治参加は我々の道徳的性格を低下させるだけなのであるという。

 我々が投票するとき、正しいと信じる原則に従って投票するが、同時にそれが正しいか間違っているかにかかわらず、多数決支持の原則を認める意思があることも示している。こうして我々は個人的な道徳的心情よりも世論を優位に置くことになる。

 ソローは自分の良心をきわめて重要視し、州の権威や民衆の意見にはほとんど何の評価もしていないので、自分の信念に反する法律には不服従であらねばならないと信じていた。彼の市民的不服従の理論は、この信念に基づいたものであるというのだ。

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