権力と経済、コロナは風邪の人と恐れる人、陰謀論とフェイク…コロナで顕在化した問題を“マルチスピーシーズ人類学”で読み解く

ーーこのような状況にあって、僕らはどうすればよいいうのでしょうか?

「ネットの普及に伴い情報の民主化が進んだことで、必然的にフェイクニュースや陰謀論と呼ばれるような情報も飛び交うようになっています。とはいえ、そういう情報が生まれる根には専門機関に対する不信があって、それらは権力を監視する意味では重要な存在かもしれません。両方がちゃんと機能すれば、情報も精査されて確かなものになるだろうとは思います。ただ、今日の状況は誰の目から見てもちょっと健全とは言えないですよね。ネット上でいろんな説が飛び交うなか、個人レベルで状況を判断が難しいこともあります。断定的なことを言ってしまうことは難しいし、無理に断言して、アクセルを全開に踏んでしまうからいろいろな問題も起こっているんじゃないかな、と。つまり、何かを信じるにしろ、信じないにしろ、複数の真実を同時に存在させておくことが重要ではないかと思います。宇宙論でも、いろんな宇宙が存在している立場からマルチバースという考え方が生まれていますよね」

画 大小島真木

ーー確かにそうですね。出版後の世界の変化についてはどう思われますか?

「ここ数ヶ月、もともと存在していた問題がさらに先鋭化して再燃しているように思います。つまり、最初はウイルスは敵なのかという問いがありましたが、いつの間にか、ウイルス自体がスケープゴートのようになって、まったく状況が読めなくなっている気がします。SNSでは感染を過剰に恐れる人たちと、コロナは風邪だと言い続けている人たちが罵り合っていて、エグみが強い。まあ、でもまさに共生が問われている局面であるようにも感じています。コロナは風邪の人とコロナを恐れる人とが共に生きていけなければ、共生なんて理念は永遠に絵に描いた餅ですから」

ーーそうですね。特に日本はオリンピック開催やワクチン接種に政府も国民も右往左往するばかりで、何の問題も解決されぬままに時間だけが過ぎていくようにみえますね。

画 大小島真木

「国家システムの機能不全は、日本だけのことではないように見えますよね。ただ、余計なことしないように監視することは大事でしょうけど、国家なんかに過剰に期待してもいいことはない気がしてます。所詮、権力です。一方で、SNSには断定的な物言いが跋扈し、多くの人々がSNSの情報だけで意思決定をしてしまう状況もあり、これは非常に残念な話ですよね。月並みですが、いつの時代も疑うことは重要だろうな、と思わされます。それは自分に関してもそうで、というのも、正しい動機が正しい行為を生むとは限らず、正しい行為が正しい結果を生むとも限らないわけですから。

 いずれにしても、今日、全ての人に等しく当てはまるようなヒストリーやストーリーを求めても無駄な気はします。というか、それがそれぞれのヒストリーやストーリーに過ぎないということを弁えることくらいしかできることが思い浮かばない。TALK07で石倉さんがダナ・ハラウェイの『ちょうどいいサイズの物語』という言葉を引いていましたけど、ヒントはそこらへんにあるのかな、と。これもまた多分ですけど」

ーーなるほど、とにかく世界や歴史、宇宙や生物、大きなスケールを意識しながらも、しっかりと自分の足で立っていこうということですね。ありがとうございます!

(了)

【刊行情報】

『コロナ禍をどう読むか 16の知性による8つの対話』

画像は「Amazon」より引用

奥野克巳/近藤祉秋/辻陽介 編著
逆卷しとね/尾崎日菜子/吉村萬壱/上妻世海/清水高志/甲田烈/松本卓也/東畑開人/山川冬樹/村山悟郎/辻村伸雄/石倉敏明/塚原東吾/平田周
亜紀書房/2420円(税込)絶賛発売中!

(内容紹介)
ウイルスは「敵」なのか? それとも――?
人類学、哲学、批評、アート、小説、精神分析、ビッグヒストリー、妖怪、科学史……。ジャンルを異にする俊英たちが、コロナ禍が露わにした二元論の陥穽をすり抜け、「あいだ」に息づく世界の実相を探る。刺激的な八つの対話集。刻々と迫りくる感染症と、その対策に奔走する我々。緊急事態宣言下の日本で行われた八つの対談は、未曾有の事態を普遍的な観点から見つめ直す、二つのまなざしが直交する対話の記録である。

(目次)
■ TALK 01 奥野克巳 × 近藤祉秋
「ウイルスは人と動物の「あいだ」に生成する」
■ TALK 02 逆卷しとね × 尾崎日菜子
「接触と隔離の「あいだ」を考える」
■ TALK 03 吉村萬壱 × 上妻世海
「私と国の「あいだ」を/で問い直す」
■ TALK 04 清水高志 × 甲田烈
「既知と未知の「あいだ」の政治」
■ TALK 05 松本卓也 × 東畑開人
「心と身体の「あいだ」を考える」
■ TALK 06 山川冬樹 × 村山悟郎
「隔離され、画像化された二つの「顔」、その「あいだ」で」
■ TALK 07 辻村伸雄 × 石倉敏明
「歴史と神話の「あいだ」の実践」
■ TALK 08 塚原東吾 × 平田周
「グローバルとローカルの来たるべき「あいだ」へ」

(著者紹介)

奥野 克巳(おくの・かつみ)

1962年生まれ。立教大学異文化コミュニケーション学部教授。単著に『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』『モノも石も死者も生きている世界の民から人類学者が教わったこと』(共に亜紀書房)、共著に『マンガ人類学講義』(日本実業出版)など。共訳書にエドゥアルド・コーン『森は考える――人間的なるものを超えた人類学』、レーン・ウィラースレフ『ソウル・ハンターズ――シベリア・ユカギールのアニミズムの人類学』、ティム・インゴルド『人類学とは何か』(以上、亜紀書房)。

近藤 祉秋(こんどう・しあき)

1986年生まれ。神戸大学大学院国際文化研究科講師。共編書に『犬から見た人類学』(勉誠出版)、論文に「ポプ老師はこう言った――内陸アラスカ・ニコライ村おけるキリスト教・信念・生存」(『社会人類学年報』43号所収)、「赤肉団上に無量無辺の異人あり――デネの共異身体論』(『たぐい vol.2』所収)、”On Serving Salmon: Hyperkeystone Interaction in Interior Alaska” (The Routledge Handbook of Indigenous Environmented Knowledge に所収)、「悩める現代哺乳類のためのマルチスピーシーズ小説――多田和葉子『雪の練習生』を読む」(『たぐい vol.3』に所収、近刊)などがある。

辻 陽介(つじ・ようすけ)

1983年、東京生まれ。編集者、文筆家。早稲田大学政治経済学部中退。大学在学中より出版社に勤務し、2011年に性と文化の総合研究ウェブマガジン「VOBO」を開設(現在は更新停止)。2017年からはフリーランスとなり、『STUDIO VOICE』(INFASパブリケーションズ)、『ヴァイナル文學選書』(東京キララ社)などの編集に携わる。現在、ウェブメディア「HAGAZINE」の編集人を務める。

文・聞き手=ケロッピー前田

ケロッピー前田(けろっぴー・まえだ) 

1965年、東京都生まれ。千葉大学工学部卒、白夜書房(のちにコアマガジン)を経てフリーに。世界のカウンターカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『BURST』(白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。その活動は地上波の人気テレビ番組でも取り上げられ話題となる。著書に『クレイジートリップ』(三才ブックス)、『クレイジーカルチャー紀行』(KADOKAWA)、責任編集『バースト・ジェネレーション』(東京キララ社)など。新刊本『縄文時代にタトゥーはあったのか』(国書刊行会)絶賛発売中!

公式twitter:@keroppymaeda

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