なぜ録音された自分の声は「気持ち悪い」のか!? 深~い理由を学者が解説、「自己同一性の危機」に陥る人も!
録音された自分の声を聞いて「自分じゃない!」と思った経験を持つ人は多いだろう。なぜ録音された自分の声が“気持ち悪い”のか――。
■話している時の自分の声は“混ざり合って”いる
音声チャットや“ズーム会議”などで自分の声を聞く機会が以前よりも増えているといえるだろう。
そこで気になるのが自分の声だ。機器を通じて聞こえる自分の声に違和感を覚えるのはなぜか。その理由をワシントン大学医学部の耳鼻咽喉科学者、二―ル・バット氏が解説している。
バット氏は耳鼻咽喉科医として患者に音声療法(Voice therapy)を行っており、診察では患者との会話を常に録音して保存しているという。これらの録音によって来院ごとの患者の声のわずかな変化を追跡することができ、手術あるいは音声療法が改善につながったかどうかを確認するのに大いに役立つ貴重なものであるということだ。
バット氏が診察を通じて何度も目の当たりにしているのは、多くの患者は自分の声が再生されるのを聞くと、目に見えて不快感を示すことだ。この患者は本当に私なのかという問われることが何度もあるという。
一部の患者は極端な不安感に襲われ、録音を聞くことを完全に拒否する者もいるということだ。
バット氏によれば、録音された自分の声を聞くことに対する不快感は、おそらく生理的なものと心理的なものが混在しているからであるという。
理解の前提となるのは、録音された音声が、自分が話すときに生成される音とは異なる方法で脳に伝達されていることだ。
録音された自分の声を聞くとき、当然だが音は空気を伝わって耳に入り、これは「空気伝導」と呼ばれる。音響エネルギーは鼓膜と小耳骨を振動させ、この骨が音の振動を蝸牛に伝え、蝸牛が聴覚信号を脳に送る神経軸索を刺激するのである。
しかし自分が話している時は、声の音は別の方法で内耳に届く。音の一部は空気伝導で伝わるのだが、音の多くは頭蓋骨を介して直接内耳に伝導される。話している時の自分の声は、外部伝導と内部伝導の両方が混ざり合っており、内部の骨伝導が低周波数を増幅しているように聞こえるのだ。
このため人々は一般的に、話すときに自分の声がより深く、より豊かであると認識している。それに比べて、録音された声はより軽薄で、より甲高く聞こえる傾向があり、多くの人がその声を不愉快なものに感じているのである。
■小さな“アイデンティティ・クライシス”
心理的、心理学的な側面からは、小さな“アイデンティティ・クライシス”に見舞われる点が指摘されてくる。
自分が自分であるという自己同一性は自分が主体性を持った一個人であることの大前提であり、常に確認が可能でなければならない。
自分の声についての主観的なアイデンティティは自分が話している時に聞こえる音声である。しかし録音された客観的な音声はその声とは異なるために、アイデンティティを揺るがされる体験を味わうことになるのだ。まさに「自分じゃない!」と叫びたくなる瞬間である。
2005年に発表された研究では、録音された自分の声にはネガティブな感情を抱く傾向があることが報告されている。
したがって録音機器から出てくる自分の声には、自分の中の“内なる批評家”が過剰反応し、他者の声よりも厳しく辛口の評価を行っているのである。自分の声について自己批判が厳しくなる傾向があることを知っておくのはよいことといえるだろう。
参考:「The Conversation」、ほか
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