【タイ発ホラー通信】まるでタイ版“牡丹灯籠”!? 心霊&ヒトコワの名作怪談「プラカノンのメーナーク」とは?


■死産した母子の幽霊の手がするすると伸び……

 舞台は、現在のバンコクに流れていた運河沿いのプラカノン村落。そこに二人仲睦まじく住んでいたのが、旦那マークと妻のナークだった。

 ナーク夫人はめでたく懐妊するが、マークは身重の夫人を置いたまま兵役にとられて戦地に赴く。戦地の旦那を心配しながら出産を迎えたナーク夫人だったが、悲劇はその出産から始まる。お腹の赤ちゃんが逆子だったため、出産は困難を極め、ついには力尽きて母子ともに死んでしまったのだ。その遺体はマハーブット寺という寺の裏手の墓地に埋められたが、出産時に亡くなった母子は「ピー・ターイタンクロム」という幽霊(ピー)になるという迷信があったので、村人たちはナーク夫人の家の近くに近寄ることさえなくなった。

 そんな中、兵役を終えたマークが村に帰ってきた。

 ちょうど夕暮れどきだったため、村人に一人も出会わないことを不審にも感じずに帰宅すると、家ではナーク夫人と産まれたばかりの赤ん坊がマークの帰りを待っていたのだった。真実を知らないマークは、その後も何ごともないように妻と子供とともに暮らし続けた。恐る恐る「お前の嫁は死んだのだ」とこっそり忠告する村人もいたが、やっと家族3人で暮らせた幸せから、マークはもちろんそんな声には聞く耳を持たなかった。

 そんな生活がしばらく続いたある日。いつものようにナーク夫人が晩御飯の準備をしている時のことであった。当時のタイの家は高床式住居で、どの家にも住居部に上がるために木のハシゴが備え付けられていたのだが、夫人が料理を作ってくれている最中、マークは古くなったハシゴの修理をしていた。

 料理の最後の味付けに欠かせないライムの実を、ナーク夫人がいくつか手にした時。つかみ損ねた実が1つ、手から滑り落ちた。その実は床の上をコロコロと転げていき、床と壁の隙間から床下にポトリと落ちてしまった。

 それを見たマークが、取ってきてやろうと思い床下に足を踏み入れたその瞬間である。

「……?!」 

 なんと上から夫人の手がスルスルと伸び、落ちたライムをしっかりと掴んだのだ。

「やはりナークはこの世のものではなかったのか!」

 マークは目を疑うと同時に大声で叫んだ。一方夫人は、夫の叫び声を耳にして真実が露呈してしまったことを悟ったのであった。

 ……まだ話の途中だが、ナーク夫人の手がするすると伸びて軒下に落ちたライムを拾うくだりは、映像的にも大きなインパクトがある。そのため、「プラカノンのメーナーク」というと、誰もが真っ先にこのシーンを思い浮かべるだろう。

 実はこの「伸びる手」というのは、出産時に亡くなった母子の幽霊といわれるピーターイタンクロムの得意技でもある。亡くなった母の霊が長い手をするすると伸ばし、高い木の枝にくくりつけたハンモックを揺らしながら子守唄を歌うという言い伝えがあるのだ。映画でも、ナーク夫人の子守唄が村中にこだまする中、村人たちが耳を塞いで家族と抱き合いながら震えるシーンが描かれていて興味深い。では、話を先に進めよう。

 全てを知ってしまったマークは、幽霊と化した妻からどうにか逃れようと計画を立てる。

 その夜、寝床に就く前にマークは夫人に「用を足してくる」と告げて庭に降りていった。庭に着くと、マークはあらかじめ穴をあけて土で栓をしておいた水瓶の栓を開け、マハーブット寺に向かって一目散に走り出した。マークの小水の音がいつまでたっても途切れないことを不審に思ったナーク夫人が庭をのぞいた時にはもう誰もおらず、水を垂れ流す瓶が残されているだけであった。

 寺に駆け込んだマークは、僧侶たちに事の成り行きを語って助けを求めた。そこで僧侶たちはマークをナーク夫人から守るため、聖糸で張った結界の中にマークを座らせ、読経をはじめた。

 その時だ。

 一人の僧侶の頭に水滴が落ちてきた。上を見上げると、子供を抱えてずぶ濡れのナーク夫人が天井から逆さにぶら下がっているではないか。

「マークを返して」

 恐ろしい姿へと変貌したナーク夫人は僧侶にこう懇願した。マークにほうに向き直り「私をもう愛していないの?」とたずねるも、マークはただ怯えて震えるだけであった。

「人間と幽霊は一緒にいられない。あきらめて自分の居場所に帰りなさい」

 そう僧侶が諭すと、ナーク夫人の哀しみと怒りはいよいよ頂点に達した。そしてピー・ターイタンクロムとしての本性を現したナーク夫人は、次々に村人たちを殺していった。その邪気はすでに、マハーブット寺の僧侶の手に負えるものではなくなってしまい、呪術師を頼らざるを得なくなった。そしてその呪術師の荒技によって悪霊と化したナーク夫人は壺に閉じ込められ、村落に平穏が戻ったかに見えた。

 しかし、その後事情を知らない老夫婦が引っ越してきて壺を開けてしまい、ナーク夫人は再び解き放たれることとなった。結局、呪術では悪霊を一時的に閉じ込めることはできても本当の意味で鎮めることはできなかったのである。

 そこに現れたのが、徳の高さで名高いワットラカンという寺院のトー僧侶という高僧だった。彼はナーク夫人が埋められた墓に出向き、その遺体の前で静かに読経をあげはじめた。トー僧侶の法力の前に、ナーク夫人の怒りや哀しみは溶けていき、やっと安寧の地へと旅立つことができたのであった。

 死してなお夫を思い、自分が幽霊だとばれることを恐れながらも、生前に夢見た幸せな生活を続けていこうとするナーク夫人の姿は、悲しくも哀れでもあり、悲恋の物語として世代を超えてタイ人の心を鷲掴みにしてきた。そんな怪談「プラカノンのメーナーク」だが、なんでも実話をもとに作られた物語だというのだ。その実話というのが、なんとも人間臭いというか、「怖いのは幽霊より人間」と思わせる代物なのである。

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