【タイ発ホラー通信】まるでタイ版“牡丹灯籠”!? 心霊&ヒトコワの名作怪談「プラカノンのメーナーク」とは?

――タイ在住歴20年の私バンナー星人が、タイ社会では馴染みの深い、妖怪、幽霊、怪談、呪術、占い、迷信といったものに光をあて、日本人の目には触れることが少なかったタイの怪奇世界に皆様をお連れします。


 皆様は、「アンシーンタイランド」と名付けられた観光地をご存知だろうか。

「アンシーンタイランド」とは、世界遺産に指定されるような有名な観光地ではないが、タイの各地に点在していてタイの観光局も勧める「知る人ぞ知る」名所を指す。「ダム湖に沈む寺院」「天国を思わせるような蓮池」「海を二つに分断するように現れる砂の道」など、これらの場所はどれも不思議な魅力に満ち溢れていて、人を惹きつけるものがある。その全ての場所が僻地にあり、容易に目にできないこともあいまって「アンシーン」というネーミングが付けられたのだろう。


 しかし、筆者が皆様に紹介したいのは「もう一つのアンシーンタイランド」である。上記で述べた観光地のアンシーンタイランドは、僻地ゆえに簡単に見に行けないという意味でアンシーンであるのに対し、私が紹介しようとしているそれは、幽霊や怪奇現象など、「この世のものではない、目に見えない存在」としてのアンシーンなタイの文化についてである。それらは目には見えずとも、長きにわたりタイの人々の生活の中に息づいてきたものたちだ。

 本連載では、タイ社会では馴染みの深い、妖怪、幽霊、怪談、呪術、占い、迷信といったものに光をあて、日本人の目には触れることが少なかったもう一つの「アンシーンタイランド」の世界に皆様をお連れしようと思っている。

 では、その摩訶不思議で魅惑的な世界をゆっくりご堪能いただくことにしよう。ただ道に迷うと帰ってこれなくなるので、くれぐれもご注意を。


■タイで大ヒットした名作怪談とは?

 現在私が住んでいるタイにも、日本の「牡丹灯籠」や「番町皿屋敷」のように昔から語り継がれている名作怪談がある。それは「プラカノンのメーナーク」という作品だ。その話の主人公である女性の霊メーナークは、タイ人なら知らない人間はいない超有名人であり、その存在感は、お岩さん、お菊さんを軽く凌駕するものなのである。

 この怪談「プラカノンのメーナーク」が今まで映画化やテレビドラマ化、舞台化された回数は、数限りない。1936年に初映画化されて以来、2016年までに20以上の作品が作られてきた。特に2016年、メーナークに化かされる旦那のマーク側の視点で作られ、二人の愛に焦点を当てつつコミカルな要素も盛り込んだ「ピーマーク(愛しのゴースト)」という作品は、タイ映画史上ダントツの最高興行成績を獲得。もし、日本で人気の俳優陣を使って現代風にアレンジしたとしても、たとえば「牡丹灯籠」が日本映画史上トップの興行成績をおさめることは極めて難しいだろう。それを思うと、この物語がタイ人の心を今も昔もいかに惹きつけてやまないかということがお分かりになるのではないだろうか。

 さて、肝心の物語であるが、日本のウェブサイトや書籍で過去にいくつも紹介されているので「メーナーク」で検索するとよいだろう。ただそれも面倒だという方は、タイのサイトで紹介されていたものを以下に訳してみたので参照いただきたい。その前に、タイトルの解説を少し加えさせてもらうと、タイ語で「ナーク」は名前、「メー」は母という意味があり、夫が不在中に死産してしまい、母子ともに死なざるをえなかったナーク夫人の無念と哀しさが「メーナーク(ナークお母さん)」というタイトルからも伺えるのである。

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