【タイ発ホラー通信】まるでタイ版“牡丹灯籠”!? 心霊&ヒトコワの名作怪談「プラカノンのメーナーク」とは?

■泥沼の相続争い

 実話では、ナーク夫人はすでに子供がいて、何人目かの出産時に命を落としたのだという。その子供たちは、母親が幽霊になることではなく、父が新しい女性と結婚することを恐れた。なぜなら、自分たちに入るはずの財産が再婚相手やその子供たちに分配されてしまうからだ。そのため、出産時に亡くなった母子はピー・ターイタンクロムという幽霊になるという言い伝えを利用し、いろいろな仕掛けで村人たちに母親の幽霊の祟りを信じこませることで、父に新しい女性が近寄ってこないようにしたというのである。

 このように、映画にドラマに舞台にとひっぱりだこのナーク夫人であるが、実はそれ以外にも活躍している場所があるので、最後に紹介したい。それは物語の中にも出てくる、ナーク夫人の遺体が埋められたマハーブット寺である。

 この寺の一角にはナーク夫人を祀った祠があり、そのことで普段から参拝客も多いのだが、特に参拝客でごったがえす時期がある。それは、タイで徴兵のくじ引きが行われる4月の上旬だ。タイの徴兵制度というのは特殊で、高校の時に軍事訓練を済ませた男子以外はくじ引きによって徴兵にとられるか免除になるかが決まるのである。黒が免除で赤が徴兵行きとなるこのくじ引きは、全国の公民館で催され、その悲喜こもごものドラマが動画などによって拡散されるという一大イベントとなっているのだ。基本的に誰も徴兵にはいきたくないので、「どうか黒いくじを引けますように」とお願いにくるのが、ナーク夫人の像が祀られているこの祠なのである。

「旦那を戦地にとられたナーク夫人の軍隊への憎しみは相当なものだろう。そんなナーク夫人におすがりすれば、自分を軍隊に送ることはないのでは」と、若者たちは藁をもすがる気持ちでここを訪れるのだ。

 実は私も徴兵のくじ引きを控えた知人と行ったことがあるのだが、やはり境内は若い青年でごった返していた。それを見て、「これだけの人数はさすがにナーク夫人も抱えきれないよな」と苦笑いしたものである。しかし、ナーク夫人のご加護があったのか、その知人は徴兵行きを免れて後日お礼参りにも行ったという。ちなみに、それ以外にもナーク夫人にお参りすると宝くじに当たるといういわれがあり、宝くじの当選発表前も参拝客でごった返しているとかなんとか……。いやいや別にくじ引きの女神さまでもないでしょうにと皮肉の一つも言いたくなるが、ご利益を期待し、賽銭を惜しまず大真面目にナーク夫人に手を合わせている人たちを目にすると、ナーク夫人もまんざら悪い気もされないかなと思ったりもするわけである。

 このマハーブット寺はバンコク中心地から電車で行ける場所にあるので、バンコクに観光にいらした際は、皆様もナーク夫人をお参りされてはいかかだろうか。その時はぜひ年末ジャンボ宝くじの当選祈願もお忘れなく。

文=バンナー星人

2004年よりタイ在住。バンコクの公立学校にてタイの高校生に日本語を教える傍ら、2017年に、高野山大学院通信課程密教学修士号取得。仏教とオカルトが織りなすアメイジングなタイの魅力にとりつかれている。

Twitter : @berialshunnya

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