3万円すら稼げない…誰も知らない悲惨なタクシー業界 栗田シメイが語る!

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タクシー業界サバイバル(扶桑社新書)

コロナ禍を生き抜く タクシー業界サバイバル』(扶桑社新書)を上梓された栗田シメイさん。タクシー業界の裏側やドライバー達の人生を取材した本書から、コロナ禍による外国人観光客の激減、オリンピック延期など激震したタクシー業界の実情を伺った。

◆タクシーは人生の最後の砦

――栗田さんは、日本で新型コロナウイルスの感染が起き始めた2020年1月頃からタクシー業界の取材を始められたそうですが、何がきっかけだったのでしょうか?

栗田 記者という仕事柄、取材相手との会食後に終電がなくタクシーを使うことが週に3、4回はあったんです。ドライバーさんと話していると、新聞やテレビで報じられるような「世論」とは違った意見を聞くことができて面白いなと思っていました。

 あと「地球タクシー」(NHK BS1)という不定期で放送されていたドキュメンタリー番組があって、主に海外のタクシー運転手を取り上げていたんです。その番組が好きで「こういう読み物があったら面白いだろうな」と、タクシー運転手一人ひとりの生き方にスポットを当ててみたいと思いました。

――本書では個性的な運転手さんが沢山登場しましたね、第四章に登場した岡村さん(仮名)が印象的でした。

栗田 あの方は取材した中で僕もすごく好きな運転手さんです。名古屋で運転手をしていて妻子もいたのに、友人と訪れた旅先でパチンコで有り金を全部擦ってそのパチンコ店で住み込みのアルバイトを始めた人ですね。しかもご家族に連れ戻されるまで1年半も帰らず羽を伸ばしていたという。

――そんな生き方があるんだなと衝撃でした(笑)。

栗田 ご本人も「家族のために働き続けるような生き方が向いていない人もいる」と仰っていましたが、確かに運転手さんの中にはそういうタイプが多いかもしれません。毎日通勤して終業後は上司と飲みに行くような生き方ができない人が集まっている気がします。僕も人のことは言えないんですが(笑)。

 様々な事情で生まれ育った土地を離れ、タクシー業界に流れ着いたという人も多いです。「ここでダメだったらもうお終いだ」とい方も結構います。人生の最後の砦のような部分があるのだと思います。


◆五輪需要を見込んだジャパンタクシーの導入

 

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――都内ではここ数年、JPN TAXI(ジャパンタクシー)が非常に多くなっていったのが印象的でした。五輪需要を見込んでかなり大きい投資をしていたのでしょうか。

栗田 投資額としてはかなり大きかったと聞いています。ジャパンタクシーの車両価格は1台あたり350万円前後で、従来のタクシー車両に比べて100万円程高額になっています。さらに運賃メーターやドライブレコーダーなどの標準装備などのコストがかかります。

 タクシー会社は運輸局の許可登録が必要なので車両を買えばタクシー台数を増やせるというものではないんです。だからタクシー台数を増やしたい場合は廃業したタクシー会社からタクシーを買い取ったりすることが多い。しかし通常より高額な導入コストをジャパンタクシーに払ったとしても五輪需要は大きいと見込んだタクシー会社も多かったのでしょう。

 

――ジャパンタクシーは運転手さんの評価はどうなのでしょうか?

栗田 運転手さんにとっても、車内の空間が広くてお客さんとの距離が遠いので安心感があるようです。運転手への暴力行為が社会問題になった2018年以降にジャパンタクシーの導入が加速した印象があります。

 広々として快適なため利用客の支持が圧倒的に高いので、顧客満足度が高くなるメリットはありますね。

 ただ、運転席のシートが硬いらしく、仮眠を取りたい運転手さんは「ジャパンタクシーは寝るのが大変なんだよ」と仰っていました。

◆コロナショックで平均年収が150万円ダウン

――五輪に向けて大きな投資をしてきたのにコロナで大きく状況が変わってしまいましたね。

栗田 2020年3月以降の営業収入は20~60%強落ち込んでおり、平均年収が100万円程下がりました。東京では150万円程ダウンしています。

――やはり相当厳しい状況なんですね。

栗田 実はコロナ前までタクシー業界はインバウンド需要でかなり潤っていたんです。僕自身取材するまではタクシー運転手は薄給のイメージがあったのですが、東京の運転手の平均収入は484万円。大阪は412万円ほどありました。(一般社団法人全国ハイヤー・タクシー連合会による統計調査より2019年)短時間勤務の高齢ドライバーも含めた平均収入としては、意外な程高いのではないでしょうか。

――サラリーマンの全国平均年収が441万円(国税庁調べ)なので、変わらないか少し高いくらいですね。

栗田 都内で乗車している40代〜50代の油の乗ったドライバーに限れば、大体年収550万円くらいは稼いでいると思います。成田や羽田などの国際空港はドル箱と呼ばれ、そこで営業されていた運転手さん達は年収800万円を超える人もザラにいたそうです。その分肉体的には過酷で、腰痛など病気になる人が多いのですが。

 2016年頃から年収は上がり続けていたんです。2012年頃は都内の運転手の平均年収が300万円前後だったのが2016年には380万円、ピークだった2019年には480万円以上になりました。

 インバウンドの始めの頃は大型バスで観光地を巡る団体ツアーが多かったのですが、個人客が増えるにつれてタクシー利用客が増えました。バスなどの公共交通機関を利用するのは外国人には難しい面があるので、京都などでは1日タクシーを貸切にする人も多かったそうです。

――それらがコロナで急に全て無くなってしまった打撃は大きいですね。

栗田 しかもしばらくインバウンド需要が復活する見込みがありません。仕事を休めば休業補償制度で生活費を得ることはできますが、実際は6割程の運転手はそれができずに手取り月8万円程の人もいて、かなり困窮しているんです。

――なぜ休業補償制度が利用できないのですか?

栗田 会社から出勤しろと言われるからです。当然ながら出勤すると休業補償は利用できません。しかしタクシー会社は国土交通省管轄の社会的インフラなので、各地域ごとに何割かの車両を稼働させなくてはいけないんです。しかし出勤したところで、1日の売上の基準となる3万円を稼ぐことは非常に難しかった。諸経費もかかる分、走れば走るほど赤字になってしまいます。

――確かにコロナの外出自粛の状態でも、高齢者や歩行が困難な方などタクシーを利用したい人は一定数いますよね。

栗田 運転手はそういった意味ではエッセンシャルワーカー(必要不可欠な仕事に従事する労働者)と言えます。しかしコロナの打撃によってタクシー業界を去る人も多く、運送業などに転職する人もあとを絶ちません。中小規模のタクシー会社の多くは、大手に合併されていくだろうと言われています。もしコロナが収束したとしても、タクシー業界に明るい未来を描くことは難しい状況にあります。<中編はこちら>

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タクシー業界サバイバル(扶桑社新書)

文=都田ミツコ

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