ハロウィンで「魔女の仮装」をする前に…ホウキ=男性器説に現役魔女が反論

ハロウィンで流行る「魔女」。「魔女」の仮装、街には「魔女」のモチーフ、「魔女」をテーマにしたハロウィンフードなど毎年のハロウィンの風物詩だ。
ところで、古来より「魔女はホウキに乗って空を飛ぶ」と信じられてきたが、なぜ「ホウキ」なのだろうか。
創作物にありがちな様々な描写方法、プロット組立のための道具立て、「お約束」などを収集するWikiである「TV Tropes」️には、驚くべき説が記載されている。それによると、「もともと、魔女が乗っていたのはホウキではなく男性器を彫り込んだ杖」であって、「ホウキのブラシ部分は男性器の偽装のため付けられた」という。さらに、ホウキのブラシ部分が進行方向に対して後ろにあるのは、車が煙を排出するような視覚的効果のためだという。
実際に、画家ゴヤの作品、「サバスに向かう魔女達」では、ホウキのブラシ部分を前にして「魔女」が空を飛ぶ姿が描かれてる。
この説がインターネット上で騒がれてから、「ホウキが男性器なら、ボウシは女性器の象徴ではないか」という噂まで囁かれている。
しかし、「魔女」である筆者はこの説に疑問をもつ。

というのも、キリスト教が唯一絶対的な価値観だった中世暗黒時代において、あらゆる異教徒が徹底的に排除され、当時の科学レベルでは説明不可能な“不思議な現象”が「悪魔や魔女の力」だと信じられていた。さらに、性的なもの・肉体的な快楽が不浄とされていた。
キリスト教において、「人間の原罪はイブが蛇に誘惑され、アダムがイブに誘惑された」「人間は魂と肉体を持ち、魂のみ永遠。肉体は神の最後の審判によって甦る」という信仰があり、イブが女性だったことから特に女性の肉体は蔑視されていた。
「魔女」とされていた女性たちは実際には薬草治療行ったり、シャーマニズムなど自然崇拝する女性たちが多かったが、「あの女はホウキの下に男性器を隠していて、自慰行為をしながらトランス状態になり、悪魔崇拝をしている」という噂を流して、「魔女」の烙印をつけていたのではないだろうか。
「魔女狩り」の時代には、どんなくだらないことでも「魔女」であることの言いがかりにされたのだ。
そして、古今東西のシャーマニズムや自然崇拝信仰の文化圏では、ホウキそのものにも神霊な意味がある。
『魔法の植物のお話 ヨーロッパに伝わる民話・神話を集めて』(フロンティア出版)によると、ヨーロッパではホウキの材料にも使われるセイヨウヤドリギは「雷除けの効果がある」という伝承がある。また、日本ではホウキは「浄化」の象徴で、「掃き出す」ことから神道では「ホウキ神」は出産の神様であることが知られる。
当時の画家も、キリスト教の教えに背くことはできなかったので、ゴヤの絵もキリスト教暗黒時代の価値観を象徴しているのだろう。
筆者がスペインの祈祷師とフィリピンのマガカリの血統を受け継ぐ魔女、叶ここ氏にインタビューしたところ、叶氏も 「TV Tropes」️の説を疑問視しているという。

「わたしの見解ですが、“男性器のついた杖”でなくあくまでも普通のホウキだと思います。ホウキ自体が男性器のメタファーである可能性は高いのですが、わざわざ彫り込んでいたわけではないと思います。長い棒は、男性器のメタファー、タロットカードの”ワンドのエース”のメタファー、ホウキは”家庭的なもの”のメタファーでもあります。家庭的かつ、子作りにも積極的な女性のニュアンスとわたしはイメージしていました。魔女の結婚式にホウキが使われたりするので。
ホウキを逆さにもつのは、魔女がキリスト教に逆らう存在だと思われていた側面が高いからだと思います。黒ミサのように、聖なるものの反対をしている存在だと思わせたいキリスト教的な魔女のイメージだと思います。何を魔女とするかにもよりますが、異教徒は全て魔女ということ、性的に乱れた存在というイメージをつけたかったのはあると思います」
あくまで我々魔女側の意見の1つだが、「魔女のホウキは決して汚らわしいものではない」と思って頂きたい。トカナ読者には安心してハロウィンの「魔女」文化を楽しんで欲しい。
参考:「TV Tropes」、「『魔法の植物のお話 ヨーロッパに伝わる民話・神話を集めて』(フロンティア出版)」、ほか
叶ここ
魔女・占い師。祖父はスペイン人の魔導師であり、祖母はフィリピンのマガガリと呼ばれる祈祷師。家系にはヒーラーも多い。幼少の頃から「その力でお金をとってはいけない」と母に注意を受けていたが、紆余曲折あり占い師を生業とすることとなる。
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