なぜこれが「世界で最も悲しい写真」なのか? 今も語り継がれるオマイラ・サンチェスの悲劇

災害後の政府の対応に批判が集まる

 「最も悲しい写真」と言われることもあるフルニエが撮影したオマイラの姿は、1986年の「ワールド・プレス・フォト・オブ・ザ・イヤー」を受賞した一方、その写真の衝撃はコロンビア政府の無策に対する世界的な批判を引き起こした。この「アルメロの悲劇」は政府の“人災”であったというのである。

 救助隊にはスコップやロープなどの基本的な装備が絶望的に不足しており、医療品や医療機器なども乏しかった。また当時のコロンビアには10万人の軍隊と6万5000人の機動隊があったのだが、そのうちの誰一人として現地へ派遣されていなかったのだ。

 一部の近隣国や同盟国はヘリコプターを使った救援活動が可能であり支援を申し出たのだが、コロンビア政府はすぐには応じずに返事を先延ばしにしているうちにすでに“時遅し”となってしまったのだった。

 当時の救助活動の最高責任者であったコロンビア国防大臣、ミゲル・ベガ・ウリベ将軍は「私たちは発展途上国であり、そのような装備を持っていない」と主張し、「町を荒廃させた泥や瓦礫をどかすことができなかったため、軍隊は派遣されなかった」と弁明している。

なぜこれが「世界で最も悲しい写真」なのか? 今も語り継がれるオマイラ・サンチェスの悲劇の画像4
画像は「Getty Images」より

 少女が死にゆく姿を撮影するだけだったフルニエにもいくつかの批判の矛先は向けられたが、彼は「彼女と人々をつなぐ架け橋になることができて幸運でした」と説明している。

「世界中には何十万ものオマイラがいます。貧しい人々や弱い人々についての重要な物語であり、私たち報道カメラマンは橋を架けるためにそこにいます」(フランク・フルニエ)

 災害後に大々的に行われた犠牲者の国葬では、参加した遺族や活動家たちによって「火山が2万2000人を殺したのではありません。政府が彼らを殺したのです」と記された横断幕が掲げられたのだった。

 2月6日にはトルコとシリアで大地震があったばかりで現地は大変な被害となっているが、人命救助には「72時間の壁」があるともいわれているように、大災害の救援では何にも優先してスピーディーさが求められていることは言うまでもない。「アルメロの悲劇」を繰り返すことのないよう、国家から地域、個人レベルにいたるまでの災害への備えが不可欠である。

参考:「All That’s Interesting」、「MITU」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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